森は、永遠の学び舎

冬の森

2024年が始まりましたが、元旦から大きな災害や事故が発生しました。被災された方々におかれましては、心よりお見舞い申し上げます。自然の世界は、何が起こるかわかりませんね。普段はあんなに穏やかなのに・・・、その威力はすさまじいです。
今日、一緒に歩く彼女は、70代の女性です。5年前、長年勤めた会社を定年退職され、その後も社会と繋がっていたいという願いから、毎日ではないですが、今も働いています。その一方で、自由な時間が平日にもできたので、興味を持っていたことに一つずつ挑戦しており、今回は、林学博士でもあるカウンセラーの森林散策カウンセリングに申し込みをされ、自然についほんとに!て学んでいきたいということでした。
今日は、3回目の森歩き。だいぶ自然で過ごすことにも慣れ、周囲の樹木に目がいくようになってきた彼女です。今日は、どんなことを学んでいくのでしょう。

――やはり冬は、森にやって来るたびに寒くなっていきますね。

―ほんとに!今日はまた、一段と寒いわね。

――はい、街の中と比べると、ここは空気が冷めたいですし、体が冷えていくのを感じますね。

―そう思って、今日は何枚も重ね着をして、背中にはカイロまで背負ってきたのよ。

――寒さ対策がバッチリでいらっしゃいましたね。冬の森歩きへの意欲が感じられます!では、歩き始めて、体の中からも暖かくなっていきましょうか!

―はい。よろしくお願いします。

と言って、二人は森の中へ歩いていきました。

――そうですね!すっかり落葉広葉樹の葉っぱが落ちたので、森の中が明るい様相になりましたよ。今日は、歩いていても、真っ青な空が常に見えるので、これまでの様子と違った印象を受けるんじゃないでしょうか。

―確かに・・・、ここからでも遠くの方まで見えるし、その奥には、青い空の色も見えるわね。

――まさにその通りです。

―冬って、寒いし、なかなか外へ出かけようとも思わなかったから、まさかこんな風に森がなっているとは思ってもいなかったわ。

――今、まさに、森歩きの極意を体験中ですよ!実際に、来て、見て、感じる尊さを体験されています。

―ほんとね!

――ましてや、誰もが空は青いと認識しているので、この空の青い色が目に入っても、「今、私達は、森の中から青い空を見ているんだ」って意識しなければ、季節間での森の様相の違いまで、気づけないかもしれませんね。

―そうね。目に映っていても、素通りしてしまうことってよくあることよね(笑)。

と、二人は空を見ながら歩いていると、ギャップ(1)のある場所へと出てきました。ここは森の中の空き地のような場所で、ここに立つと、外から見た樹木の形が見えます。カウンセラーは、今出てきた方向へと身体の向きを変え、視線を樹木全体に向けてみました。彼女もそれに釣られ、振り返って樹木を見上げています。

―あら!可愛らしい♪ここの木々達は、みんな両手を広げて万歳をしているようね。

――ほんとですね!

―さっきまで歩いていた森の中の木々達は、こことは違って、みんな、お辞儀をしているように感じたんだけれど。

――鋭いですね!どの樹木も、光を求めて枝を伸ばしていきます。ここの樹木は、こちら側に光を遮るものがないので、枝が左右に伸びています。でも、森の中では、周囲に樹木があり、空間も狭く、そして暗いので、なるだけ光がある方へと枝を伸ばしていくんです。さっきの空間では、私達が歩いてきた道があるので、その空間へと光を求めて枝が伸び、お辞儀をしているように見えるのだと思います。

―なるほど~。自然ってすごいわね。誰からも教わらなくても、ちゃんと生き抜いていくために、必要なものを求めていくんだから。私も、まだまだ頑張っていかないとね!

――自然から、励まされますね!

―葉っぱのない冬に来たからこそ、初めて分かったことだなんて、奥が深いわね。ここに来ると、私は、まだまだ知らないことがいっぱいで、「ひよっこ」なんだわって感じちゃう(笑)。毎回、自然のことを学ぶけれど、結果的に、自分の人生を振り返ったり、新しく得られた知識で視野が広がったり、人としての学びがあって、毎月、とっても楽しいの。本当にこれを選んで良かったわ!

と、彼女は目を丸くして、まるで好奇心旺盛な少女のように、語ってくれました。

彼女は、これまで何回、冬を過ごしてきたのでしょう。今回、初めて冬の森へ出かけてみると、想像すらしなかった景色に出会いました。何歳になっても、知らないことを知るってウキウキしますね。ましてや、以前から興味を持っていたことに挑戦し、それが、ご自身の楽しみにもなったことは、非常に嬉しいことですし、彼女の自尊心はさらに高まっていくのだろうと推測します。もしかすると、生き抜いていくために必要なものを求めていく樹木の姿に、ご自身を重ね、今、求めていることが叶えはじめているのかもしれません。つくづく、森は、訪れた人の年齢に関係なく、それぞれに合った学びをさせてくれるのだと思いました。
来月の森歩きは、今日よりもっと寒くなりそうですよ!それでも、楽しんで歩きましょうね。

ブログ執筆者
竹内啓恵 https://jumoku.co.jp/info/b201906-2/

~森のメモ~

(1) ギャップ 
森林内の空間のことですが、強風や雪害、火災、寿命や病虫害による高木層の枯死や倒木、もしくは、人為的な伐採などで、森林が部分的に破壊されて林冠に孔が開いた空間をいいます。