森で、日常を。

5月~6月の広葉樹の森

5月~6月の広葉樹の森

オニグルミ(1)の実

オニグルミ(1)の実

家の中を中心とした生活様式は、一見すると、ずいぶん私たちの日常に馴染んできたように見えます。ですが、実際は、目に見えないひずみがどこかしらに生じてきているのではないでしょうか?
今年から、会社全体で在宅勤務になったという彼女は、今日が3回目の森歩き。前回まで、顔が強張り、言葉がほとんど出なかった彼女。今日、挨拶した様子からは、だいぶ緊張が解けたようです。では、早速、歩きに行きましょう!

――先週の雨が嘘のように、今週は晴れが続いていますね。

―ええ・・・、久しぶりに太陽の光を浴びました。

――おお!久しぶりに。

―通勤をしなくなってから、晴れていても、雨が降っていても、あまり日常生活に支障がなくなって。

――そうなんですね。

―夫は、毎日出勤しているんですけど。

――なるほど。

―前回まで、本当に緊張しちゃってて・・・。話そうとすると声が上ずっちゃって、自分でもすごいびっくりしていました・・・。オンラインで会社の人と話すことがあっても、夫や両親以外の人と、直接会って話すことがなくなったせいなのか・・・。
こんな自分になっちゃってたなんて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
外に出かけなくなったから、この森歩きを始めたんですけど。

と、彼女は自分の変化にとにかく驚いたことを何度も繰り返し、言い続けていました。しばらくして、オニグルミの樹木がある場所に差し掛かり、カウンセラーは、足元に注意しながら、ゆっくり登っていくよう、彼女に伝えました。すると、

―あれ?ウメが落ちてる?

――おぉ!見つけましたね!
ウメに似ているんですが、クルミの実なんですよ。

―えー!あの硬い殻の?

――はい。この青い部分の中に、あの硬い殻のクルミが入っているんですよ。

―へぇ~。初めて見ました。でも、ウメにそっくりですね。

――確かにそっくりですね。

彼女は、この時期になると、毎年梅酒を漬けるために夫と遠出して、梅を買いに行っていたそうです。しかも、梅酒が出来上がると、同じく梅酒を漬けている同僚と、どっちが美味しいか飲み比べまでしていたそうです。すると、

―今年は梅酒を漬けます!

と、大きな声で断言しました。

―去年は、コロナで梅を買いに出かけなかったんです。でも、今年なんか、このクルミを見るまで、梅酒のことさえ頭に浮かばなかったんです。なんか・・・・・・・・・・。
なんか、いつの間にか、自分らしくなくなっていたっていうか、人間らしくなくなっていたというか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・おかしいなあ・・・。

毎日のように、外に出かけるとか、誰かと他愛もないことを話すとかって、大事な日常だったんだなーって。

 

と、彼女はしみじみと話してくれました。

これまで普通に行っていた「外に出かけること」や「人と話すこと」は、いつでも、誰とでも、できそうに思いますが、ひとたびその機会を失ってしまうと、気がつかないでいるうちに、私たちの心にはひずみが生じていってしまうのではないでしょうか?森は、一見したところ、非日常空間ですが、そこは、私たちの日常を取り戻す空間でもあるのだと感じます。彼女がどんなふうに、自分の日常を工夫していくのか、これから楽しみになりますね。

 

ブログ執筆者 竹内啓恵
https://jumoku.co.jp/info/b201906-2/

 

~森のメモ~

(1) ウメ バラ科サクラ属
Armeniaca mume
小高木。庭木や公園樹で普通に見かけますが、実は中国原産で、奈良時代に渡来したといわれています。花は、サクラより一足先に開花し、春の訪れを楽しませてくれます。その実は、梅干しや梅酒などでもお馴染みです。

(2) オニグルミ クルミ科クルミ属
Juglas mandshurica
高木。北海道~九州の温帯に自生しています。河原、谷沿い、寒地の緩やかな川沿いで見かけます。固い殻の中にある種子は、スイーツなどにも使われ、美味しいです。葉の形は、小葉が羽のように並んで一枚の葉となる羽状複葉(写真)で、その大きさは40㎝~60㎝と大きいです。