日中は、20度を超す暖かい日もありますが、季節は、すっかり秋となりましたね。森の中を歩くと体は暖まり、その分、少し冷んやりした空気が、ちょうど心地よい気分にさせてくれるようです。
さて、今日、一緒に歩く彼女は20代後半の働く女性です。入社5年目で、職場には何人かの後輩ができ、仕事自体にもかなり慣れてきたようです。これまでの業務の他に新しい仕事まで任せられるようになり、毎日、忙しく過ごしています。一方、プライベートでは、結婚を意識しはじめ、そろそろ、これからどういうスタイルで過ごしていきたいのかを考えていきたい、ということでやって来ました。
今日は、2回目の森歩き。いったいどんなものに出会うのでしょう。
――そう言えば、先月の森歩きの最後で、冒険だったと仰ってましたね。
―はい、よく、ジブリとかのアニメを見ていたので、自然が好きだと思って、迷いもなくこれを始めたんですが、考えてみると、今まで、自然と関わってこない生活をしてきたかも・・・。だから、実際に、生の森を歩いてみたら、見るもの全てに驚くことがいっぱいで・・・、冒険をしている感があったんです。
――ドキドキ、ワクワクだったんですね。
―はい、ゲームをしているような感覚にも似ていたなぁと。でも、トリセツやマニアルがないので、戸惑うことも多かったんです。
――取扱説明書や攻略本のようなものですか。
―はい。次に何が起こるか分からないスリルがありました。
――なるほど!
と、話しながら歩いていると、林床に色々なものがあるのが目に入ってきました。
―あ、クリですか?
――はい、そうです♪
―わぁ~!イガイガのある栗を見たのは、小学生の時の栗拾い以来です!でも、小っちゃい?
――普段食べているクリは、食用グリで、いろいろと改良されてあそこまで大きくなったんです。
―なるほど!言われてみれば、小学生の時に行ったのは、栗園でした。こうやって森の中で栗が落ちている姿を見たのは初めてです。なんか、、、、黒くはないですけど、形が「まっくろくろすけ」に似てませんか?
――確かに!目を付けた姿を想像すると、かわいいですね!
―ふふっ(笑)。
そしてまた、少し歩いていると、
―あれ?ひげがたくさん出ているような?んー、太陽の光にも見えるこの不思議な形をしているのは何ですか?
――これは、ドングリが被っていた帽子ですね。「殻斗」と言います。これはクヌギのものです。
―触っても大丈夫ですか?
――はい、大丈夫です。
とカウンセラーが言うと、彼女は、それを拾い上げました。
―え~意外と硬いんですね。
――はい、さっきのクリのイガと同じような役割をしてるんです。
―そうなんですか!あのイガイガも帽子なんですか?
――イガイガやこの硬い部分の中で実が育ち、害敵から実を守る役割を果たしているんです。
―へぇ~。そうだったんですか!それにしても面白い形をしていますね。ドレッドヘアにも見えてくるし!
――ユニークな形ですよね。
それから、さらに、歩いていくと、
―ええっ!クリとクヌギが合体したようなものがありますけど!
――表現がいいですね♪これは、ツチグリという名前のキノコなんです。
―ええ!これがきのこなんですか??????
――はい(笑)。食べ方に注意をすれば、食べられるようです。
―えーっ!食べられるんですか?!
――はい、でも、食べる時は、キノコをよく知っている人に聞いてからにしてくださいね。ところで、このキノコは面白いんですよ。真ん中に穴が開いてるのが見えますか?
―はい。
――その穴から胞子が出るんです。だから、人や動物がこのキノコを踏むと、その勢いで、この穴から胞子が飛び出て散布されるんです。
―子孫繁栄ってことですね。そんな技術を持っているとは!
――いろいろと生きていく技を持っていますよね。
―・・・・・・・・・・。今まで知らなかった世界がまだまだありますね・・・。生まれて初めて見た形や生きものがあったり・・・、一見、似ているような形でも、全く違うものだったり・・・、色んな方法で自分達の子孫を残していたり・・・、自分の視野が広がっていくような感じがします・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。最近、自分の仕事に、ある程度慣れてきて、新しいこともするようになって、自分の世界が確立してきたんだという感覚があったんです。でも、その一方では、何となく違和感もあって・・・・・・。ずーっと同じ職場で、同じ仲間の中で過ごしていると、その環境が当たり前かのように思って、そこの世界でしか物事が見えなくしちゃうんだなって思いました。それは危なかったなあと・・・。きっとこれからも、色んなものに出会えるんでしょうね!
――はい、季節によっても森の姿は違いますよ。
―トリセツやマニュアルもないですもんね。
と、彼女はキラキラした目で話してくれました。
これまでさまざまな彼女達と森歩きをしてきたなかで、彼女達が、今まで見たことのないものと出会ったり、知ってはいたけれども、そのものの新たな一面を知ったりすると、少しずつ彼女達の気持ちや考えが変化していく姿を目の当たりにしてきました。森の力もさることながら、彼女達の感性や感覚が森の中で研ぎ澄まされていく過程を真横で感じさせられると、つくづく、人間も自然の一部であり、その力は無限大なのかもしれないと思います。
今日の森歩きで、トリセツやマニュアルがないと言った彼女。これから森の何に気づき、自分自身を成長させていくのでしょう。来月も、いろいろな冒険を楽しんでいきましょうね。
ブログ執筆者
竹内啓恵 https://jumoku.co.jp/info/b201906-2/
~森のメモ~
(1)イガ
クリの殻斗です。イガは、トゲで覆われ、4片に裂けてクリを落とします。
(2)クリ ブナ科クリ属 Castanea crenata
高木の落葉広葉樹。北海道南部~九州の温帯に自生します。葉は互生で細長く、クヌギに似ています。しかし、鋸歯の先まで緑色のため、この点がクヌギと異なります。野生の実は、食用として栽培する実より小さいです。
(3)殻斗
どんぐりを覆っている帽子のような硬い部分です。総苞片(鱗片)とも言います。はじめは、幼い堅果を覆い、乾燥や害虫から守るなどと考えられています。
(4)クヌギ ブナ科コナラ属 Quercus acutissima
高木の落葉広葉樹。本州~九州の暖温帯に自生または野生化します。葉は、互生で鋸歯があり、クリに似て細長いです。鋸歯の先の緑色がクリと異なり抜けています。樹皮は、縦に深く裂け、裂けめの底がオレンジ色です。クヌギのドングリの殻斗は、くせ毛の髪のように鱗片の先がドングリを囲んで反り返っています。
(5)ツチグリ ツチグリ科 Astraeus hygrometricus
夏から秋にかけて、林内や土手の裸地に発生します。幼菌時は地中にあり、偏平な球形ですが、成菌になると地上に出て星形に開きます。頂上の中心部分に穴が開き、そこから胞子を放出します。子ども達は、このキノコを踏んで煙(胞子)を出す遊びが好きですよ。