森で、本来の光を取り戻す

秋らしい爽やかな風が吹いてきました。森の中では、木の実だけでなく、キノコなどの菌類も見られるようになりましたね。

今日、森歩きをする彼女は、文学部に通う女子大生です。本が大好きで、昨年の4月に念願だった文学部が有名な大学へ入学しました。しかし、気軽に話せる友達が出来ないまま二年生となってしまい、好きだった読書もさることながら、生活自体を楽しめなくなってしまったそうです。この夏休みに叔母へ相談したところ、以前、叔母もしていたこの森林散策カウンセリングを紹介してくれました。
今日は、2回目の森歩きです。いったい彼女は、どんなことを森から学んでいくのでしょう。

――今日も、森歩きを楽しんでいきましょうね。

―はい、楽しみにしてきました。先月、本当に楽しかったので、あの後、叔母とも、この森を歩きに来たんです。

――まあ、そうでしたか!

―叔母も、この森がどんな様子になっているのか見たいと言ってくれて。

――それは、いい仲間ができましたね。

―はい・・・、ただ、私達だけだと植物の名前が分からなくて・・・・・・。

と、彼女は、やや思いつめた表情で言い、今日は、自分達が見た樹木の名前を全部覚えて帰りたいと話しました。それからは、目についた樹木の名前を片っ端から質問しはじめ、それにカウンセラーが答えると、何度もその名前を復唱し、覚えようとしていました。と、そこに、

――ちょっと面白い形のものが見えますよ。ほら、あそこに!

―えっ?あの白いのですか?

――はい、そうです。

―わぁぁぁ・・・もしかして、きのこ?え~!?まっ白で、なんか毒がありそう。

と言って、そのキノコに彼女は近づいて行きました。

――おそらくシロオニタケという名前のキノコで、毒を持っているんです。

―そうなんですね!でも、形は可愛いですね。

――本当に可愛らしいですよね♪まるで、今、地面から起き上がりましたよ~、という雰囲気が漂っているようです。

―ふふふ(笑)・・・、もののけ姫に出てくる「こだま」のように見えます♪

――なるほど!不思議な姿のキャラクターですよね。

―はい、こだまも、こうやって森の中にいましたよ。

――そうなんですね♪また別のキノコもこちらにいますよ。

―わっ、こっちはパンみたい!

――確かにパンのようですね。

―すごく美味しそう~。わっ!あそこには、このきのこが並んで生えています!もしかして、あれを辿って歩いていけば、お菓子の家が現れてきそうです。

――童話のヘンゼルとグレーテルのお話ですね♪

―はい♪

――お話の世界が広がっていきますね。あれは、オオノウタケというキノコで、食べることもできるようです。

―え~!食べられるんですね。

――ただ、私自身がキノコに詳しくないので、そこは慎重に。採取する場合も、もっと詳しい方に聞いてからにしてください。

―はい・・・そうします。

と彼女は言って、樹木の名前を質問することなく、森の中を楽しみ始めました。

―不思議ですが、森の中を歩いているだけで、子どもの頃好きだった童話やアニメのことなど、色々な物語が思い出されてきます。ヘンゼルとグレーテルに出てくるお婆さんは怖い思い出がありますが、それでも、二人が行ったお菓子の家には、私もずっと行きたいと思っていたんです。一度でいいからお腹いっぱいお菓子を食べてみたいなあと。

――子どもにとって、あれは夢の家でしたね。

―私は、今でもいきたいですよ♪想像するだけで、口の中が甘くなってくるようです・・・・・。うゎっ、ここにはドングリがいっぱい落ちてる!つい、「ドングリコロコロ~」と口ずさんじゃいそうです(笑)。

――楽しくなりますね♪

―はい、樹木の名前をひたすら覚えるより、ずっと楽しいです♪

と笑いながら言う彼女の顔に、やっと明るい表情が戻ってきました。

どんな状況にいても、焦らずに、今いる状態を楽しもうとすることが大事なのかもしれません。楽しんでいると、自然に必要なことを覚えたいと思うようになり、いつの間にか、苦労と感じず、身に就いていくように思います。
今日の彼女は、キノコやドングリなど、今の時期ならではの自然に出会い、シンプルにそれを楽しんだことで、彼女が本来持っているものが、自然と現れてきたように思います。子どもの頃好きだった物語や童謡など、彼女が文学部を志望した原点が、こういうところに隠されているのではないでしょうか。
来月から、紅葉が少しずつ始まります。また、新たな彼女の感性が光ると思うと、今から楽しみです。ぜひ、たくさんの秋を見つけていきましょうね♪

ブログ執筆者
竹内啓恵 https://jumoku.co.jp/info/b201906-2/

~森のメモ~

(1)シロオニタケ テングタケ科テングタケ属  Amanita virgineoides
広葉樹林内、針葉樹林内の地上で発生。傘の径は6~20㎝。初め球形ですが、のちに開いて半球形~丸形となり、やがて中高の扁平となります。傘の表面は白色で、先のとがったとげ状のイボを多数密布しますが、離れやすいです。傘の肉は白色で厚く、硬いです。以前は、毒性はないと紹介されていましたが、現在は有毒成分が検出されていますので、決して食べないでください。

(2)オオノウタケ ハラタケ科ノウタケ属  Calvatia boninensis
広葉樹林内の地上や道端に発生。洋ナシ形のキノコで、頭部と茎の部分からなります。高さは4~10㎝。頭部は扁球形で、表面は茶褐色~赤褐色。細かいビロード上の毛に覆われていますが、成熟するとしわが生じます。

参考文献:「きのこ・木の実・山菜カラー百科-野山の幸をまるごと楽しむ」主婦の友社(1984)