アセビ:樹木の外観(左)と花のつぼみ(右)
人によって「冬の森」のイメージは異なりますが、大抵の人は、「何もない」と思っているのではないでしょうか?今回の彼女も同じように感じていたようです。
日頃から仲間と過ごすより一人で過ごす方が好きな彼女は、今日で、森歩きが5回目となりました。自分自身に無頓着で、物静かな性格が重なり、学生の頃から今の職場に至るまで、人から声をかけられたことが少なく、「変な人」と思われてきたそうです。以前は気にならなかったようですが、これからのことを考えたら、自分の印象を改善したいと思ったそうです。さて、2月の森は、どのようなことをもたらしてくれるのでしょう?
―最近、森に来ることが楽しくなってきました。
――んん!良かったですね!
―はじめて来た時は、葉っぱが落ちていく季節で、
その様子を見ていたら、悲しい気分になったんですよ。
――ふ~ん、悲しい気分ですかあ・・・。
―葉っぱが落ちたあとは、冬が来て、寒いし、何もないし、
ここでも自分が取り残されていくように感じたんです。
――なるほど。
―だけど、冬になってからも、いろんなことを見つけて帰ると、
次は何を発見するんだろう?と思うようになっていたんです。
いつの間にか、この時間を楽しみにするようになっていました。
――んん!楽しみに!
と、カウンセラーはあいづちを打ちながら、冬でも葉っぱのある樹木に目を向けてみました。
その様子を見た彼女も目を大きく開き、その樹木をじっと見始めました。すると、
―ん!この葉っぱの間から出ている赤っぽい茎?に、
緑と赤の小さい丸いものがたくさん付いていますよ!
もしかして!?花のつぼみですか?
――そうなんです!たくさんありますね!
―ほんとう!可愛いです。
と彼女は言って、つぼみを手に取り、眺め始めました。
――「アセビ」という名前の樹木です。漢字で「馬」が「酔」う「木」と書いて「馬酔木(アセビ)」といいます。名前の由来は、葉っぱを食べた馬が酔ったようにふらつくことから付けられたと言われています。
―え!馬が食べて酔ったんですか?
――はい、実はこの樹木には毒があるんですよ。
なので、つぼみや葉っぱを味見をしないでくださいね。
―んーーん。毒があるとは!見かけからは想像できないですね。
と言って、考え込んでしまいました。しばらくすると、
―全然目立たないのに、綺麗な色をした可愛いつぼみの姿に、
いろんな意味で胸を打たれました。
毒を持っていることにはびっくりするんですが、
それがまた、どういうわけか惹きつけられるものを感じます。
目立たないですけど、見た目って大事なんだなあって思いました。
しかも、このつぼみが、春はすぐそこまで来ていることを教えてくれていますよね。
と、話してくれた彼女の表情には、自分自身への反省の色が見えました。
彼女は、決して人と話すことが苦手だったのではありません。彼女の内面は豊かで、話すと惹きつけられるものを持っています。ただ、これまで自分の好きな時間を優先し、自分自身に無頓着すぎたのです。それは大人になるにつれ、「変な人」という印象を人に与えてしまい、いつの間にか人を寄せ付けなくさせていたのです。
けれども、森の中で見つけた小さな植物に彼女は衝撃を受けました。誰もが気づく訳でもないのに、美しい色と可愛いい姿で存在し、一度目に入ると、それが毒を持っていようと、その見かけに惹きつけられていく自分自身を感じたのです。さらに、その姿を見なければ、森に春の訪れがあることさえ気づかなかったのです。彼女がこれからどのように変身していくのか、楽しみです。それにしても、冬の森にはたくさんのものが転がっていましたね。
ブログ執筆者 竹内啓恵
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