冬の森からのメッセージ

美しい樹形(左)と落ち葉の林床(右)

 

寒い季節になると、外へ出かける機会は自然と減っていきます。ですが、森林散策カウンセリングは、いつもと変わらず森へと出かけていきます。
カラフルなネイルに、バッチリメイクの彼女。一緒に森歩きを始めて、半年が経ちました。冬にスキーへ行ったことはあっても、森や公園には出かけたことはなく、出かけたいとも思わなかったそうです。なぜかと言うと「何もないから」だそうです。
先月から、冬に突入した森は、彼女にいろいろなことを伝え始めているようです。「何もない」のではなく、どうやら「何も知らなかった」のだと、感じてきたようです。

―あんなにたくさんあった葉っぱが、すっかり無くなっちゃうものなんですね。

と、正面のイロハモミジに目を丸くしながら、彼女は話し始めました。

――見事に葉っぱが無くなって、幹と枝だけになりましたね。

―身に着けていたものを全部脱いじゃって、
寒そうというか・・・、さっぱりしたというか・・・、
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・お化粧を落として素顔になったようにも見えます。

――なるほど(笑)!すっぴんになったわけですね!
はっきりした樹木そのままの姿になりましたね。

と、その姿を二人で、まじまじと見つめました。

――寒い時期に葉を落とす樹木は、なるべく自分のエネルギーを使わないようにして、冬の時期に自分自身を守るんですよ。

―自分の素を見せて、逆に自分自身を守っているんですか。

――たしかに!そうですね。
秋になると、葉の付け根の部分(葉柄)に離層(りそう)(1)という細胞の層が作られて、根からの水分を葉っぱに届かないようにしたり、葉の中の酵素の働きで離層と結びつく細胞間の結びつきを弱くさせたりして、葉が落ちるんです。

―そんなことをしているんですか・・・・・・。
目には見えないけど、いろんな作業を行っていたんですね。

――はい、まさに生きていくための戦略のひとつですね!

―なるほど・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・自分とは真逆だなあ・・・。

と、彼女は言ったまま、考え込むように歩きはじめました。
そのまま森の中を歩き回り、やっと最後になって、

―知ることって大事ですね・・・。
今日は、ほんと、いろいろ考えさせられました。

と、低いトーンでひとこと語り、この回を終えました。

冬の森には「何もない」と思っていた彼女。夏の森と比較すると、確かに樹(落葉樹)には、「葉」がないですし、緑という「色」もありません。しかし、それまで隠れていた樹木の本来の姿が現れ、樹木自身を支えている幹や、無数に伸びている枝は顔を出し、きれいな杯形の樹形(2)をも見せてくれるのです。また、葉っぱを落とすのにも、次の春から生きていくためのしくみであり、ちゃんと理由があったのです。
彼女が言った「自分とは真逆だなあ」という言葉から、いままで生きていくために、色々と着飾ってきたのだろうということが伺えます。お化粧を落としたら、恥ずかしいかもしれませんね。でも、自分の素の姿を見せて、自分を守って生きていく樹木の姿に、とても大きな衝撃を受けたのです。半年間、一緒に森を歩き続けてきたからこそ、彼女がここまで感じるようになったのです。あともう少しですよ。さらに森を楽しんでいく半年間にしましょうね!

 

ブログ執筆者 竹内啓恵
https://jumoku.co.jp/info/b201906-2/

 

~森のメモ~

離層(1) 離層
葉柄の基部付近の柔細胞がさかんに分裂し、葉柄を横切るように形成された小さい細胞の層のことです(右の絵)。離層部の細胞は、ペクチナーゼやセルラーゼという酵素が合成され、細胞壁や中葉の部分的な溶解が起こって細胞が分離し、葉が脱離していきます。

(2)樹形
漢字の通り、「林木の形」という意味です。