森との関わり合いから

フキノトウ(注1)

ヤマモモの雄花(注2)

新しい生活様式が始まり、1年が経とうとしています。いまだに外出することや、人に会うことが思うようにならない状況ですね。
昨年の6月、1回目の緊急事態宣言が解除された頃、彼女との森林散策カウンセリングは始まりました。当時、彼女は在宅で、家族と密接に過ごす時間に疲れ、息をつく術すら思いつかない状態になっていました。ですが、半年以上の森歩きは、どうやら彼女だけでなく、家族にもくつろぐ時間をもたらしてきたようです。

―実は、昨日も子ども達と、ここに来たんですよ。

――んん!そうなんですね。

―いろんなお土産を持って家に帰ってきました!

――ほお!どんなものを?

―葉っぱに、どんぐりに、松ぼっくりに・・・、

と、彼女は歩き始めると、この森に、子ども達と出かけた時のことを、楽しそうに話し始めました。

―ここで教えてもらった自然のことを、子ども達にも伝えているんです。すると、「ママ、すごいね!」って言われるんです。

――んん!それは、嬉しいことですね。

―逆に、子ども達からは、毎回びっくりさせられているんです。

――どんなことでですか?

―「ママ、地面に、ちっちゃな花束があるよ~」って娘が言うので、指差す方向を見たら、フキノトウだったんです。真ん中の花が、彼女には紙に進まれているように見えたらしくて!

――おお!林床の小さなところにも、お嬢さんは目を向けていたんですね。感性が豊かで、表現もかわいいですね!

―はい、私もかわいいなあって思いました(笑)。
息子は大声で、「めんたいこだ!」って叫んだんですよ。見たら、あそこにある赤いものを見て言ったらしく、思わず声をたてて笑っちゃいました。それから、無性に明太子をみんなが食べたくなっちゃって、その晩は、夕飯のおかずになりました。

――夕飯のメニューが森の中から出てきたんですか!面白いですね。
ヤマモモの赤い花に目が行った息子さんは、顔を見上げて森の中を歩いていたんですね。二人のお子さんたちの視点が異なり、視野が広がりますね。

―はい、森に来ると、子ども達の目は輝いて、毎回、いろんなものを発見してくれるんです。そういう姿をみると、こっちも嬉しくなります。去年は、あんなにギスギスしていたのに・・・と思うことがあります。森を知って森を歩くことは、とってもシンプルですけど、いろいろなことが豊かになるなーってつくづく考えさせられます。

 

と、彼女は、森歩きを通じて、変化していった自分と家族の姿を、痛感したようでした。

家族が一日中、同じ空間で顔を合わせるようになると、日々、イライラが募り、気づくと家庭内は緊迫した空気に包まれていました。そんな状況の中で、仕事を持ち、妻であり、母である彼女は、疲れ果ててしまったのです。しかし、森歩きを始めると、本来持っている彼女の健全さが少しずつ取り戻され、家族への嫌悪感も軽減されていきました。彼女のような状況は、今の制約された社会状況であれば、どの家庭でも起こり得ることだと推測します。

ですが、森の中をむやみに歩くだけでは、彼女が実感した自身の変化や家族の変化は起こりにくいのです。彼女は、森林散策カウンセリングを選んだことによって、森を楽しみ、その知識を教えてもらいながら、ゆったりと自分を見つめていったカウンセラーの支えがあったからこそ、彼女だけではなく、彼女を通し、彼女の家族にも本来持っている健全さを取り戻すことができたのです。何気ない日常ですが、何ものにも代え難い豊かな時間を得たのです。あと2回、思う存分、森を楽しみましょうね!

 

ブログ執筆者 竹内啓恵
https://jumoku.co.jp/info/b201906-2/

 

~森のメモ~

(1) フキ キク科フキ属
Petasites japonica
3~5月に花が咲く多年草です。本州、四国、九州、沖縄に分布。野山、土手、田畑、道端、庭先で見かけます。葉より先に花をつけますが、この花のことを「フキノトウ」と呼びます。フキノトウも葉柄も苦味があり、早春の味として親しまれています。

(2)ヤマモモ ヤマモモ科ヤマモモ属
Myricaceae Morella rubra
雌雄異株で、高木の常緑樹です。関東南部~沖縄の温暖帯や亜熱帯に分布します。山でも見かけますが、公園樹、街路樹、庭木としても植栽されています。葉は、細長い倒卵形で枝先に集まってつき、6月頃に赤い実をつけます。その実は甘酸っぱく美味しいです。