森は常に静観しています

森の中には、いろいろな昆虫もいます。カマキリ(左)ホタルガの幼虫(右)

暦の上では秋を迎えましたね。心なしか、朝晩に吹く風が少し涼しくなってきたように感じますが、昼間の暑さが和らぐには、もう少し先になりそうですね。
さて、今日一緒に森歩きをする彼女は、もうじき一年を迎えます。当初、都会しか知らない我が子に自然体験させたいと、まずは自分が下見をしてからと始めた森林散策カウンセリングでしたが、いつしか心の内を心置きなく吐露する空間になっていったようです。
慣れ親しんだ森での対話もあと2回。今日の森歩きで、彼女はどんなことを思うのでしょう。

――相変わらず暑さが厳しいですが、ゆっくり歩いていきましょう。

―はい、本当に暑いですね。でも、ここに来るのを楽しみにしていました。

――それは何よりです。

―毎回、ここでの1時間があっという間に過ぎていくので、自然がこんなにも飽きない場所だと思いもよりませんでした。

――飽きないですよね。

―私も、子どもたちと同じように都会の中で生まれ育ってきたので、全くと言っていいほど自然のなかで遊んだ経験がありませんでした。この一年は、そういう意味でもありがたかったです。

――大人になっても自然を楽しむことって必要ですね。

―以前、姉が、この森林散策カウンセリングをやっていて、毎月元気になっていく姿を間近で見ていたんです。はじめ、普通に元気な姉なのに、なぜカウンセリングに行くんだろうか?また、なぜカウンセリングなのに森へ行くんだろうか?と不思議に思っていました。でも、毎回、森から帰ってきた姉が、楽しそうに自然のことを話してくれるので、だんだんと興味が湧いてきたんです。しかも、子どもも行きたいって言いはじめるし・・・。それじゃあ、子どものためにやってみようかなと思って始めたんです。まあ、結果的に、自分のためになってしまいましたが(笑)。

――自分のためになったことが何よりです。

今、彼女が話してくれたように、当初は子どものためにこの森林散策カウンセリングを始めたのです。毎月、森を楽しみながら歩いていくうちに、彼女は樹木の種類を覚えはじめると同時に、夫へのストレスを打ち明けるようになりました。それは、子どものしつけや教育方針について、夫と全く違った考えを持っているにもかかわらず、自分は夫の考えに合わせないといけないと思い我慢をしてきたが、最近になって、もうそうすることが辛くなっていったということでした。繰り返し森を歩き続けていると、彼女はある時、異なる樹木や植物が同じ場所に存在しているにもかかわらず、お互いに邪魔をせず、それぞれの個性を尊重しているかのようにその空間を作り出していることにハッとさせられたそうです。そして、「そのままでいいんだ」と思った瞬間、「夫婦だって違うんだから、お互いに意見が違ったっていいんじゃないか!」と思えたそうなのです。

―お陰様で、あれから、夫といろいろなことを話せるようになり、だいぶ気持ちが楽になりました。

――良かったですね。

と、話していると、二人の目の前に小さな生き物が姿を現しました。

―あ!カマキリ(写真左)!

――あ、カマキリですね。

―わぁ~手にはちゃんと「鎌」を持っているんですね!

――そうですね。

―こんなにじっくりと虫を見られるようになるなんて、一年前の自分からは信じられません!

――自然に慣れましたね!そっちの方にも違う生きものがいるようですよ。

―わあっ!こっちには毛虫(写真右)?・・・・・でも、きれいな色をしていますね。

――いったいどこのデザイナーさんがこんな素敵なデザインしたのかしら?というような形と配色ですね。

―はい!ネコバスやドクターイエローにも見えてきます。

――ほんとですね!

―ライターさんや工業デザイナーさんって、こういう自然から描くヒントをもらうんですかね?

――どうなんでしょうね。そうだとすると、私達もこの一年でいろいろなヒントをもらってきたんでしょうね。

―・・・・・はい、そう思います。私は自分の考えを夫に話せるようになりましたし、夫の意見も素直に聞けるようになりました・・・・・・・・・。でも、それには、1年という時間をかけてきたから出来たんだと思います。森に1回来たたけでも、気分が良くなりますが、こうやって森の中のことを自分の中に落とし込めるようになるには、毎月来て、ゆっくり知っていったからだろうと思います。これは体験してみないと分からないことですよね。

と、彼女はしみじみと話してくれました。

同じ森を何度も歩いていくと、人はその環境に慣れ、親しむようになります。そして、そこにあるいろいろな自然の物に目が行くようになり、興味を持つようにもなります。そこで、すかさずカウンセラーが、彼女達の興味を持った自然を楽しんで理解へと促していくと、それらが次第に彼女達の知識となり、何かの際に、ヒントになって表れてくれるようです。だからこそ、森で出会う樹木や植物、生きものや土壌、そして天気などの自然に、じっくり楽しむことを繰り返していくのは、とても大事なことのように思います。時間をかけて心と体で得たものは、いろいろなことへの応用も効くようです。これはとても地味な作業なのですが、彼女達の軸をしっかり強くしていくように思います。
それにしても、森で過ごすひとときは深いですね。毎回、このブログで振り返るたびに、森歩きの醍醐味は一つではないのだと感じます。来月も、すっかり近づけるようになれた小さな生き物たちに、たくさん出会えるといいですね。

ブログ執筆者
竹内啓恵 https://jumoku.co.jp/info/b201906-2/

~森のメモ~

(1)ホタルガ チョウ目マダラガ科 
頭部が赤く、胴と翅はマットな黒。前翅に太目の白い線が斜めにあり。昼間に飛ぶ蛾で森林域の木陰をひらひらと飛び、幼虫はサカキとヒサカキを食草とします。

(2)カマキリ カマキリ目
前脚が鎌状に変化し、他の昆虫などの小動物を捕食する肉食性の昆虫です。みなさんも、子どもの頃から馴染みのあるいきものだったのではないでしょうか?