森からのねぎらい

日本各地で紅葉シーズンが始まりました。一見、自然の変化は、ゆっくり進んでいくかと思われますが、案外、花の開花や樹木の紅葉など、あっという間に終わってしまうので、もう少しちゃんと見ておけば良かったなどと思ったことはないでしょうか。
今日、一緒に歩く彼女は、三十年間、一人でカフェを切り盛りしてきた女性です。そのお店は、少し都心から離れた自然豊かな場所にあり、休日にもなると年配の常連さんで満席になるそうです。持ち前のバイタリティで、今まで頑張ってこられてきたようですが、最近、なんとなく体力的にキツイと感じることが増えたそうで、思い切って営業日を減らしたとのことでした。
今日で3回目となる森歩き。どうやらキツイと感じるのは体力だけの理由ではないようです。さて、森はそんな彼女にどのようなメッセージを伝えてくれるのでしょう

――だいぶ紅葉が進みましたね。

―ほんとね。こうやってゆっくり紅葉を見られるなんて、いつぶりかしらね・・・。気づけばずーっとお店をやっていたからね・・・。

――長い間、頑張ってこられたんですね。

―頑張るも何も・・・、だってそれしかやることがなかったんだもの。

――それしかやることが、なかったんですね。

―いつも紅葉の時期は、お店の中から見る程度だったから・・・、こうやって森に来て、木々の葉が色づいている様子を見ることが不思議な感じがするわね。ついつい、「お店に行かなくちゃ」っという思いにも駆られるのよね。

――お店と共に、長い間歩んで来られたんですね。

―・・・。こういうきれいな赤や黄色のモミジの葉を見ると、あの料理に添えたらきれいとか、この料理を葉っぱの上に載せたら美味しそうとか、思っちゃうのよね。

――いろいろな料理のイメージが浮かぶんですね。

―ん、、、そうなんだろうね。

と、彼女は、終始つっけんどんな態度で話していました。

―でも、最近、一人でやっていくには、結構きつくなってきたのっ。顔なじみの常連さん達は、こういう私の性格を分かってくれているから何にも言わないし、私も何とも思わないんだけど・・・。初めて来たお客さんや、たまに来るお客さん達が来た時は、なんとなく仕事がしんどいな、と感じるようにもなってきたのよね・・・。

――それはくたびれますね。

―んーーー、子ども達にも言われるんだけど、まあ、私の態度がね・・・・・・。昔は、若かったし、1軒しかお店もなかったから、とにかく自分ができることを自分なりにやっていこうとがむしゃらになっていたんだけれど、徐々に他にもお店が出来るようになって、地元の野菜を使った料理だけを売りにしているんじゃ、これからはやっていけなくなってきたのよ・・・・・・。それに、こんな言葉遣いじゃあねぇ・・・。

――厳しい状況になってきているんですね。

―そうね。だから、この際、辞めちゃってもいいんだよね・・・・・・・・・・・・。

と、彼⼥は、さきほどまでの勢いはとは異なり、つぶやくような口調で言いました。と同時に、彼⼥も、カウンセラーも、色鮮やかな紅葉の美しさに⾔葉を失 い、その場に⽴ち⽌まったまま、しばらく目の前の景⾊に⾒とれてしまいました。そして、カウンセラーは、タイミングを見計らい、

――ここで美しく色づく葉は、これから来る冬の寒さの中で役に立たなくなると感じ、まさに枯れ落ちる準備をしているんですよ。つまり、引き際を悟った葉の最後の晴れ姿になっているんです。

―アハッ!役に立たなくなる前の晴れ姿に・・・。

――今紅葉している葉は、これまで春に開く葉や花を大切にしまっておく冬芽を作るために一生懸命、光合成を頑張ってきたんです。つまり、ちゃんと次の準備をしてきた証でもあるんですよね。

―引き際を悟った晴れ姿でもあるけど、ちゃんと次の準備もしているんだ・・・・・・。へぇーーーー・・・・・。

と言って、彼女はまた黙ってしまいました。そして、だいぶ時間が経ってから、

―思い切って私も、要らない部分を取り外してみて、次への準備をしてみようかしらね!だって、常連さんが来てくれている間は辞められないしっ!

と、彼女は、少しはにかむような笑顔になって、自分の気持ちを一生懸命に語ってくれました。

自然豊かな場所で、彼女が一人、それも最初は一軒だけのカフェだったという状況で、ここまで続けてきたことは、相当なガッツとバイタリティが必要だったと思います。ましてや、お店が起動に乗るまでの道のりは、私達の想像を超えるものだったのではないでしょうか。そして、彼女の提供するお料理は、カフェと言いながらも、地域の食材をふんだんに使ったもので、その地域に対していろいろと還元もしてきたようです。しかし、彼女自身も気づいているように、時代の変化とともに、彼女の態度を理解してくれる人が少なくなりつつある状況で、それではこの先太刀打ちできないと感じたようです。それならば、この機会に自分自身も変えてみたいと思ったようで、この森林散策カウンセリングに参加することを決意されたのです。今は、素直に話せなくても、彼女の言葉の端々からは、「自分を変えたい」という強い気持ちが伝わってきます。ですが、どうか焦らず、ゆっくり自然に癒されながら、進めていきましょう。自然同様に、案外、その変化は早いと思うかもしれませんよ。
来月も、ここで待っていますね。楽しみにしています。

ブログ執筆者
竹内啓恵 https://jumoku.co.jp/info/b201906-2/

~森のメモ~

ハウチワカエデ ムクロジ科カエデ属 Acer japonicum
小高木~高木。北海道や本州の冷温帯に自生します。葉は対生で鋸歯があり、浅い切れ込みがあります。名前のごとく天狗の羽うちわのように丸く、可愛らしい形をしおり、秋になると赤、黄、オレンジ色に紅葉して美しいです。