何気ない森歩きの秘訣

ミツマタの花

新年度が始まり、街中には、真新しい制服やスーツに身を包む人々の姿を目にするようになりました。これから始まる生活に期待や不安を抱えている人達は、少なくないかもしれませんが、焦らず、少しずつ、新しい生活に慣れ親しんでいってください。
さて、今日は、ご両親の介護をしながら、フルタイムで働く彼女との森歩きです。数年前に2人の子どもは独立し、そのタイミングで彼女は、ご両親と一緒に暮らし始めました。引っ越した当初は、まだ、自分の自由な時間があったそうですが、コロナ騒動の数年間に、外出を控える生活をしてから、ご両親の足腰はすっかり弱まってしまったそうです。今では、どちらが親なのかと思うほど、二人とも彼女に頼りきった生活で、時々、彼女にも限界がやってくるそうです。そんな彼女に、6回目の森は、どんなことを伝えてくれるのでしょう。

―すみませんっ!今日は少し遅れてしまって・・・。母のデイサービスの日だったんですが、今朝は全てに時間がかかってしまって。。。

――無事に送り出せて、良かったですね。

―はい、ほっとしました。

――すっかり春になりましたね。

―はい!ここに来る途中に桜並木があるんですが、ちょうど走ってきたこともあって、急ぐたびに花びらが舞って、とても綺麗でした。

――それはウキウキしますね!

―はい、今の時期が一年中で一番好きなんです。というか、桜がとても好きなんです。

――そうなんですね。今年は、いつもより桜の開花が遅かった分、長い間、楽しめることができましたね。

―はい。毎日がウキウキでした。先月は、ちょっとフライングしてしまって・・・、まだ桜が咲いてないのに、お花見しに出かけたんですよ。というのも、最近、両親が歩かなくなってきたので、桜をだしに外へ連れ出したんです。でも、桜は全く咲いていなかったので、途中から二人ともが怒り出したんですよ!「どこへ行くんだ?」「どこまで行くんだ?」「まだなのか?」「何もないじゃないか!」って!それはもう大変でした。

――そうでしたか。

―・・・なので、急遽、家に引き返すことにして。家に着くまで文句言いっぱなしでした。

――困っちゃいましたね。

―はい、結構疲れました。

――本当にお疲れ様でした。

―こういうことがあると、両親が年老いたなあって感じます。少し前までは、こんなにすぐ怒りだすタイプじゃなかったになぁと・・・。分からなくなりますね。

――そうですね・・・。ただ、年老いた親御さんがいらっしゃる方は、同じようなことをおっしゃる方が多いですね。

―確かに・・・。友達とも、お互いの親のことについて話していると、みんな怒りの沸点が低くなったよねって言います。しょうがないのかなあと思う反面、やっぱり「なんで?」とか、「あ~あ」とか思いますね。

――そうですよね。

と、彼女はそれからご両親との生活について、いろいろと話し始めました。そして、特に、最近は毎日、仕事から帰ってくる途中で、夕飯の食材を買い、それから料理を作って皆で食べるという生活リズムになってしまったのが、地味に疲れるとおっしゃいました。そして、

―気づけば、一日中、動きっぱなしだと思うことがあって・・・。

――休む暇もないですね。

―はい・・・、以前だったら、私が仕事をしている間に、父が買い物に行って、母が食事の用意をしてくれていたんですよ。それが、コロナの時に、在宅ワークになって。その時、私が買い物に行ったり、食事を作ったりしはじめて、それ以来、このスタイルが定着したようなんです。

と、彼女が言った時、遠くに黄色の丸い花が見えてきました。カウンセラーは、耳を傾けながらも、その方向に視線を向けていると、彼女もそれに倣い、目を向けました。すると、

―まぁ~かわいい♪丸い黄色の花がたくさん咲いていますね。

――はい!ミツマタの花ですね。球体状に花が付いていますよ。

―小さな毬のようでかわいいですね。

――ほんとですね。

―でも、あまり見かけない木のように思います。

――実は、普段の生活の中では、非常にお世話になっている樹木なんですよ。

―えっ、何だろう?

――それは、お札です。

―え~っ!千円、五千円、一万円のお札ですか!?

――はい。繊維が長いので、何回折り畳んでも、破れず、耐久性が優れていることから、この樹木が使われるようになったようです。

―そんな優れものなんですね、この木が。

――ちなみに、和紙の原料でもあります。

―あ~言われてみれば・・・。確か・・・、中学生だった頃に、夏休みの旅行で家族と紙漉き体験をしたことがありました。あんな感じになるんですね、この木が。んーーー、だんだん古い記憶がよみがえってきます。懐かしいです・・・あの頃は、みんな若かったですよ(笑)。両親も、今の私よりずっと若かったです・・・。今思うと、色々なところに連れてってくましたね。

――いろいろな経験をさせてくれたんですね。

―そうですね。たまに、こうやって昔のことを思い出すことは必要ですね。今の生活状態だけだと、どうしても愚痴の方が多くなってしまいます。今日のように、ちょっと昔を思い出すと、感謝の気持ちがあらわれますね。

――たまに思い出すって大事ですね。

―はい!半年たってみて思うのは、毎回、自分が大したことを話してない割には、こうして歩いていると、いつの間にか気分が晴れて、また頑張っていこうと思う気持ちになれていることです。もちろん、一人で自然の中を歩いていても気分は晴れるんですが、こうやって自分のことを話すことで、「あ~今、自分はこう考えていたんだ」とか、「こんなところに、自分はモヤモヤしていた気持ちがあったんだ」とかが具体的に分かるんです。自分ではなんとなく分かっていたつもりでいても、ちゃんと言葉に出してみないと意外に分からないんもんなんですよね。だから、自分の気持ちは整理されてきたんだなと思いました。しかも、森歩きをしていると、自然のことも知っていくので、それはまた、楽しいんです。今回も、元気になれて、また、両親とやっていけそうです。

と、笑顔で彼女は話してくれました。

日々の生活で起こる些細な出来事が、毎日積み重なっていくと、意外にも、心理的な負担は大きくのしかかってくるものです。ですが、この些細なことって、些細なだけに、すぐに忘れてしまったり、しっかり向き合い、解決しようとしたりするものでもないんですよね。だからこそ、毎日、なんとなく、モヤモヤしてしまうんだと思います。
彼女が話してくれたように、カウンセラーと森を歩きながら、自分の話しをしていくことは、日々抱えているモヤモヤを整理するのに役立ちます。そうなると、自然と、心も体も軽くなっていくようです。また、森の中で得られる自然とのふれあいは、毎日の生活の中でも、楽しみが増えていきます。これって、治療でもないし、友達とのおしゃべりでもないんです。森林散策カウンセリングならではの仕様で、醍醐味なんだろうと感じています。
今も、「どうすれば自分の中のモヤモヤが無くなるんだろう?」と、思い悩んでいる方がいらしたら、ぜひ、彼女のように何気なく、森歩きにいらしてみてください。
さあ、来月も♪一緒に森歩きを楽しんで、元気になっていきましょう!

ブログ執筆者
竹内啓恵 https://jumoku.co.jp/info/b201906-2/

~森のメモ~

(1)ミツマタ ジンチョウゲ科ミツマタ属
Edgeworthia chrysantha
落葉広葉樹の低木。葉は互生につき、全縁で細長い形をしています。実は皆さんにも馴染み深い樹木で、お札の原料になっています。かつては、和紙の原料として日本各地で栽培されていましたが、今ではだいぶ少なくなりました。また、名前の通り、枝は三つに分かれ、繰り返し伸びていくので、ぜひ見つけたら、枝にも注目してみてください。