森の中の不思議体験

 場所は同じでも、立っている位置が異なると、森の景色が異なって見えます。
写真左:坂の下から見上げた景色。写真右:坂の上から見下ろした景色。

夏本番になってまいりましたね。森の中は、木々の葉が、最も生き生きとしたシーズンなのではないでしょうか。
今日、一緒に歩く彼女は、社会人3年目の女性です。職場の上司や同僚と、表面上うまく付き合ってはいるものの、いったん彼らのネガティブな面を見てしまったら、一気に嫌悪感が湧いて、毎日一緒に過ごすこともしんどくなってきてしまったそうです。そうなると、他の人との付き合いにも抵抗を感じるようになり、誰も居ない自然の中で、ゆったり過ごしたいと思い始めたそうです。
今日でもう6回目の森歩き。夏の森は、半年前とは全く異なる様相になっています。その中で、彼女は、どんなメッセージを受け取るのでしょう。

―わぁ~、すごいですね!葉っぱがわさわさしていて、勢いを感じます。

――本当にそうですね。 

―半年前の森とは大違い!こんなにも森の様子が変わってしまうのかと、びっくりします。

――確かに、半年前の樹木には、全く葉っぱが付いていなかったですもんね。

―はい・・・。つくづく自然の力に圧倒されてしまいます。森にはたくさんの葉っぱが茂っていると分かってはいましたが、こんなにも葉に勢いがあるなんて、想像すらしなかったです。これも、冬の時期から歩き始めたことで、より実感できたことですが・・・。こうやって、自分の目で見て、体験していかないと、分からないことですね。

――そうですね。 

と、彼女はそう言って、いつも以上にキョロキョロしながら森の中を歩いていきました。それから折り返し地点まで行くと、また、今来た道を引き返してきました。

―あれ?ここって、今通ってきた道でしたっけ?

――はい、そうですね。

―えーー!?全然違うところを歩いているような印象です。もし、一人だったら、迷っちゃってたかもしれません。

――確かに違った道に見えますね。同じ道でも、さっきとは真逆の向きになったので、見てきた景色も、樹木も、反対側の面が見えています。

―確かに・・・。あの木はありましたもんね。普段の生活でよく行く建物や道路を、行ったり来たりしていても、ここまで全く違う場所に来たという印象は持たないですね。でも、森の中では、はっきり違った場所に来たような印象を受けます。

――そうですね。さらに、また別の角度からこの場所を見てみると、今見ている景色とも違って見えてくると思います。

―ん・・・、別の角度で、同じ場所を見ると、確かに、全く違った印象になりますね。

と言って、彼女は、今いる場所から見えている景色を、じっくり観察し始めました。一本一本、樹木の幹や枝の形を眺め、先ほど見た景色と、どのように違って見えるのかを、丁寧に確認しているようです。すると、「はっ」としたような表情に彼女はなりました。

―これって、人に対しても言えますね・・・。入社してから、人に接するのが嫌になってしまったんですが、それは、ある一面だけを見て、嫌な気持ちになっただけであって、もし、違う面を見ようとしていれば、そんな印象を持たなかったんじゃないかって、今思いました。なんか・・・・・・・、自分の視野が狭すぎて、驚きます。自分だって、ある側面しか見られずに不快な思いを持たれていたら、なんて理不尽なんだろうと感じると思うのに・・・。あーーーーー、すごい小っちゃい人間ですね!これからは、色々な事に対して色んな角度から見るようにしていきたいと思いました。

と、真っ赤な顔になりながら、彼女は話してくれました。

都市部に住んでいると、180度、目の前の風景が変わることなど、ほぼないように思います。ましてや最近、どこの町に行っても、同じような町の作りばかりで、いったいどこに来たのかさえ分からなくなることも少なくありません。その点、森の中では、季節の変化とともに景色も変わり、同じ道でも、往復するだけで違った印象を持ちます。もし、彼女が、会社の誰から、嫌だなと感じる人について、「ネガティブな面だけでなく、ポジティブな面もあるんじゃない?」と助言されていたとしても、今日、この森の中で体験されたほどの気付きが得られたのだろうかと疑問に思います。「百聞は一見に如かず」と言うことわざがあるように、自ら体験して気づいたことは得難いものです。
彼女がこれからどのように人と関わっていくのか楽しみですね。来月も暑いと思いますが、真夏の太陽とともに、森を楽しんで行きましょう!

 

ブログ執筆者 竹内啓恵
https://jumoku.co.jp/info/b201906-2/