(写真左)シロツメクサ(1)とハナバチ
蒸し暑い日が続くようになりました。そろそろ梅雨も終わりに近づいてきたようですね。
今日、一緒に森歩きをする彼女は、この春、定年退職されたばかりの60代の女性です。若い時分は、休みの日に体を動かすことが好きだったそうですが、年を重ねていくうちに、翌日の仕事に影響が出ないような過ごし方をするようになったそうです。定年を迎え、やっと、自分の好きなことを好きなように過ごせるようになり、ずっと出かけたかった豊かな自然の場所へ行きたいと思って、森林散策カウンセリングに申し込みをされました。
彼女にとって、今日が初めての森歩き。久しぶりに触れ合う自然で、どんなことに出会うのでしょう。
――さて、ここから森の中へと入っていきます。
―はい!
――のんびりと、自分のペースで歩きながら、森を楽しんでいきましょう。
―どうぞよろしくお願いいたします。
と、挨拶をした後、彼女はカウンセラーの後に続いて森の中へ入っていきました。
―やっぱり自然はいいですね~♪気持ちがいいです。
――はい、気持ちがいいですね。
―久しぶりに、自然のあるところに来れました。
――そうなんですね。
―ずーっとこういう場所に行きたいと思っていたんですが、一人で行くには怖いし、かといって、森林散策カウンセリングを申し込むほど悩みがある訳じゃないし・・・どうしようか迷っていたんです。んーーー、この「カウンセリング」という名前に抵抗感があって・・・・・・。
――はい、よく同じようなことを言われます。
―でも、ホームページを読んでみると、気分がリフレッシュできて、四季の移り変わりや静かなひとときが楽しめると書いてあって・・・、カウンセラーさんは女性のようだし、やっぱり森へ行きたいという気持ちが強くなってきて・・・・・・。まぁ、退職したし、自分のことを一度は考えてもいいかなあと、申し込んだんです。
――いろいろと考えたうえで、お申込みいただいて、本当にありがとうございました。思いっきり森を楽しんでいきましょうね。
―はい♪今、こうやって歩いているだけでも、わくわくしてきました♪
と、彼女は笑顔になって話し始めました。しばらく歩を進めていくと、次は、退職された会社をはじめ、それまで勤めた職場や結婚、子ども達のことなど、今まで彼女がしてきたさまざまな出来事について、堰を切ったように話されました。そして、
―やっと自分の時間ができて、好きなことに取り掛かれるようになれたんです。でも・・・、まだ自分には、何かができるんじゃないかとも思うんです。
――何かができそうだと感じているんですね。
―はい。毎日家にばかりいても、つまらなくなってきて。子ども達からは、まだ働けるうちは働いた方がいいんじゃないの、とも言われるし・・・・・・。でもねぇ・・・、今度働くとしても、人や社会のために働きたいなあと思い始めているんです。
――それは素敵ですね。
と、話がひと段落したところで、少し開けた場所へやって来ました。そこは、草地になっており、小さな白い花がたくさん咲いています。
―まぁ!懐かしい~。子どもの頃、この花を摘んでよく遊んでいました!
――そうでしたか。
―緒に遊んでいた子ども達の中に、少し大きなお姉さんがいて、皆で、花冠の作り方を教わりました。わぁ・・・、思い出すなあ♪自分で作った花を頭に載せた時、とっても嬉しかったのを覚えています。
――いい思い出ですね。
―シロツメクサという名前でしたっけ?朝ドラにも出てきて、「あっ」と思いました。
――そうだったんですね。
―この白い花って、いつ見ても咲いているので、不思議だなぁと思っていたんです(笑)。
――確かに、いつも咲いている印象ですね!よく見ると、小さな花がたくさん集まっているのが分かると思います。これらが集まって、一つの大きな花のように見えるんです。実は、下から順番に花が咲いていき、一つの花の中には咲き終わった花と咲いている花、さらに、これから咲く花が入り混じっています。小さな一つの花の寿命が短くても、長い間、花が咲いているように見せて、目立たせているんです。
―へぇー、こんなに小さいのに、すごい工夫をしているんですね!
――そうなんです。また、昆虫がこの花の蜜を吸うには、後ろ足で花びらを押し下げないと、蜜への入り口が開かないんですよ。なので、小さなハチやアブは蜜を吸うことができずに、蜜を手に入れられたミツバチなどが、この花ばかりを周って集めるようになるんです。そうなると、花は効率よく受粉して、ミツバチは効率よく蜜を得て、という仕組みが生まれ、お互いに良い関係性が出来上がるんですね。
―なるほど~!すごい仕組みが出来ているんですね。ちょっと知るだけで、目の前の世界が変わりますね。
――ほんとですね。
―それに・・・、なんだか励まされました。定年退職したからと言って、人生が終わったんではなく、これからも次々に新しいことが始まっていくんだなあって・・・感じました。自分の持っている花も、このように咲き続けさせたいですね。これから、何ができるか見つけていこうと思います。
と、言った彼女の目は、キラキラと輝き始めました。
別名、クローバーとも呼ばれるシロツメクサ。将来に向けて、このような戦略を立ててきたとは!幸運をもたらすというより、自ら幸運を掴みに行くアクティブさを感じます。
特別な悩みがなくても、森歩きを始めると、自然に、色々な話が出てきます。森の中では、スーッと力が抜けて、自然体でいられるからかもしれません。その自然の状態で、自然のことを知っていくと、今、自分に必要なヒントが手に入れやすいのではないかと感じています。その仕組みを知ると、モヤッとした時に、森歩きがしたくなってしまいます。
さて、来月は夏真っ盛り。暑さを乗り越えて、これからどんな花を咲かせていくか、見つけていきましょう。
ブログ執筆者 竹内啓恵
https://jumoku.co.jp/info/b201906-2/
~森のメモ~
(1)シロツメクサ マメ科
Trifolium repens
花期は5~8月。草地、道端、空き地に生える多年草。ヨーロッパ原産。別名「クローバー」。葉は無毛の3出複葉が基本で、4つ葉のクローバーは変異体。実は、5つ葉やそれ以上もあるそうです(私はまだ見たことがありません)。