森には、強いお母さんがいっぱい

 (写真左)新緑の森
(写真中・写真右)コナラ(1)の芽吹き

今年は、サクラをはじめ、さまざまな樹木の開花や、葉っぱの展開(2)が早かったようです。森は、あっという間に緑となり、爽やかな季節へと移り変わりました。
今日、一緒に森歩きをする彼女は、仕事と家庭を両立しながら、もうじき社会人になるお子さんを育ててきました。昨年、そのお子さんの就職が決まり、この4月から親元を離れて生活することが決まったそうです。しかし、その頃からだんだんと気持ちが落ち着かなくなっていき、どうしたものかと困ってしまったそうです。そんな彼女は、今日で5回目の森歩き。いったいどんなことを、森は伝えてくれるのでしょうか?

―やっぱり、先月とは全然違いますね。

――ほんとですね。

―森の中から青い空が見えていたのに、今日は、一面緑ですね。あんなに幹や枝しかなかったのに・・・・・・、いつの間にか、こんなにたくさんの葉っぱが出てきて・・・・・・。先月は、もうここの木が枯れちゃったんだって思っていました(笑)。自然はすごいですね。

――そうですね。

と、劇的な森の変化に驚きながら、奥へと進んでいきました。

―娘が、この4月からやっと社会人になったんです。それと同時に、一人暮らしというか、会社の寮なんですが、家を出ていったんです。

――日常は、ずいぶん変わりましたね。

―はい・・・。子どもと別々に生活することで、昨年は、すごく不安に感じていましたけど、あっ、もちろん、毎日ちゃんと食事をしているかしら?朝は起きているかしら?など、いろいろな心配はあるんですが、いざ離れてみると、ほっとしたというか、なんというか・・・、社会に出るまでに自分が出来ることがひとまず終えたような気持ちになったんです。

――肩の荷が少しおりたんですね。これまで仕事をしながら、家事や子育てと、長い間、お疲れ様でした。お子さんの門出は嬉しいですが、その反面、寂しくなりますね。

―はい、やっぱり寂しいですね・・・・・・・・。

と、そこでカウンセラーは立ち止まり、林床に目を向けてみました。彼女もそれに釣られて、目線を下に落としました。

―あっ、落ち葉の隙間から、小っちゃい植物が出てきてますね!

――そうなんです。これらは、昨年落ちたドングリが発芽して、ここまで成長してきたコナラの子ども達なんです♪

―へぇ~!!秋にたくさん落ちていた、あのドングリですか・・・?わぁ~~~、ちゃんと芽が出るもんなんですね!初めて実物を見ました!かわいいですね♪♪♪

――はい。このコナラのお母さん達は、子どもをドングリに育てあげた後、自分から離して旅に出すんです。地面に落ちたドングリは、条件が整えば、落ちた土壌に根付き、それからこのように成長していきます。

―そうなんですね。

――でも、地面に落ちなかったり、落ちても雨で流されたり、もしくは、動物に食べられ、人に踏まれたりするなど、大人になるまでの間は、いろいろな試練が待ち受けています。

―確かに・・・。ここのは、まだ赤ちゃんのようで(写真中)、そっちのは、ちょっと大きくなった幼稚園児のような(写真右)。こうやって大きくなれたのも、いろいろと乗り越えてきたからなんでしょうね・・・・・・・。そう考えると、愛おしくなりますね。子どもがちゃんと成長できるように、きっとこの木のお母さんも、見守っているんだろうと思います・・・・・・・・。でも、目の前で、子どもが流されたり、動物に食べられたりするのは、悲しくてやりきれなくなるんじゃないかしら・・・・・・。同じ親として、この木の強さに勇気をもらいます。

――どのお母さんも立派ですね。

―(笑)。今日は、以前にも増して、森の木々達に親しみと暖かみを感じます。自分も、こうなれるように見習いたいですね・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。頑張って、大きくなってね。

と、彼女は、まるで自分の子どもを見つめているかのように、暖かい眼差しで、稚樹達にエールをおくりました。

社会に出た子どもが困ったことに直面しても、ああだこうだと口出しせずに、見守ることは大切ですね。しかし、こう分かっていても、子どもへの心配は尽きず、いつまでも親でいたいという気持ちを持ち続けている人は多いのではないでしょうか。その点、樹木の親木は、子どもに対して迷いのない潔さを感じます。でも、強風や雨水、強い日差しなどが直接稚樹に当たらないようにガードするなど、そっと見守り続けているように見えます。それも、母樹以外の多くの樹木らで、見守っているようです。そう思うと、ほっとしますね。
来月は、さらに緑濃くなっていきます。いろいろな楽しみを見つけていきましょう!

ブログ執筆者 竹内啓恵
https://jumoku.co.jp/info/b201906-2/

~森のメモ~

(1) コナラ ブナ科コナラ属
Quercus serrata
幹はほぼ直立し、樹形は不ぞろいの高木。北海道~九州に分布し、都市近郊の雑木林や山地の代表的な樹木です。

(2) 展開
植物の葉が開き、広がることを言います。