森は、健康バロメーター

街を歩いていると、どこからともなく沈丁花(ジンチョウゲ)(2)の香りがするようになりました。春になりましたね♪
これから森歩きをする彼女は、コロナ禍の数年間、休日以外は、一日中マスクをしたままの生活を過ごしてきました。たまには思いきり新鮮な空気を吸いたい、と思ったことをきっかけに、森林散策カウンセリングを始めてみました。しかし、どうでしょう。いざ森の中で歩き始めてみると、自分の鼻が利かなくなっていたことに気づいたようです。
さて、彼女の森歩きは、そろそろ終盤にさしかかってきました。いったい今日の森で、どんなことに出会うでしょうか。

――だいぶ暖かくなってきましたね。

―はい、歩くと汗ばんでくるようになりました。

――ほんとうですね。

―去年、歩き始めた頃は、ちょうど梅雨が終わった頃で・・・、ここ一面、緑でしたよね。それが、冬になると葉っぱが落ちて、これから春になると葉っぱが出てくるんですよね。

――はい、ちゃんと季節が巡ってきますね。先月からの景色は、変わっていないように見えるんですが、少しずつ、樹木の芽は膨らんできているんですよ。

―ほんとだ!気が付かなかったですが、芽は大きくなっていますね!こうやって意識して見ないと、気がつかないですね・・・・・・。でも、ここに来るようになって、やっと季節とともに森の景色や植物が変化していくことが分かるようになりました。今までの森の季節の変化は、イメージだけで、実体験が全然伴ってなかったんだなあって思いました。

――なるほど。五感をフル活用して体験してきたんですね。

と、話していると、

―うゎっ!何だろう?この臭い・・・?この辺一帯、変な臭いがしませんか?

――この・・・ガスっぽい感じの臭いですか?

―そう言われれば、火が付かなくて、何回もガスコンロを回した後のような臭いに似てますね。

――そうしたら、これですね。

と、カウンセラーは、脇にあったヒサカキに近づいて、葉がついている枝を裏返してみせました。

―あっ、かわいい!!小さな花がたくさん咲いてますね!

――小さくてかわいいですよね。

―花が咲いてるなんて全然思いもしなかったですけど・・・。

――そうなんです。全く花が主張してないんです。

―奥ゆかしいというか、謙虚というか・・・(笑)。ん?なんか臭いがさっきより強くなりません?もしかして・・・!?

と言って、彼女はヒサカキに鼻を近づけました。

―うわぁーーー、くさっ!!

――いい匂いじゃないですよね。可愛らしい姿からは想像できない臭いで。

―はい(苦笑)。

――森の中からガス漏れがすると通報されたエピソードもあるぐらいなんです。

―見た目と香りが裏腹ですね!可愛いからと思って近づいたら、痛い目に合っちゃったというような感じで・・・。

――人間社会にも同じようなケースがありそうですね(笑)。・・・・・・ところで、この微かな香りによく気づきましたね。

―あっ♪ほんと!匂いが分かるようになってきたのかも!!! 去年、ここで、自分の鼻が利かなくなってると分かってから、こまめに仕事中でも外へ出て、新鮮な空気を吸うようにしてきたんです。やっと!匂いが分かるようになったんだあ♪

――良かったですね。

―はい!

と、 彼女は満面の笑みで頷きました。

良かれと思ってしたことが、時々裏目に出ることがあります。この数年、誰もが当たり前にしてきたマスクでも、度を過ぎると、自分の体に悪影響を及ぼすようです。
「新鮮な空気を吸いたい」という心の声をしっかり聞いた彼女は、森歩きを始めたことで、自分の体調不良に気づくことができました。またそれは、日常生活におけるマスクとの付き合い方を工夫するきっかけともなって、体調を少しずつ回復させてきたようです。森の中では、「歩く」という運動の他に、「見る、聞く、嗅ぐ、触る、味わう」という五感を意識せずに使います。どうやらそれは、さりげない健康バロメーターになっているように思います。
これから春爛漫の季節となります。来月はいったいどんな香りが待っているんでしょう。たくさん鼻を利かせていきましょうね。

ブログ執筆者 竹内啓恵
https://jumoku.co.jp/info/b201906-2/

~森のメモ~

(1) ヒサカキ サカキ科ヒサカキ属
Eurya japonica
小高木~低木・常緑樹。本州~沖縄の暖温帯に自生します。3月~4月頃に白~紫色の花が咲き、10月以降になると黒色の実になります。いずれも1cmも満たない大きさであまり目立たちません。この樹木を見つけたら、ちょっと葉を裏返して可憐な花を愛でてみてください。
こらちもヒサカキの樹木を紹介しています。 https://jumoku.co.jp/info/b202004/

(1) ジンチョウゲ ジンチョウゲ科ジンチョウゲ属
Daphne odora
低木・常緑樹。中国原産。庭木や公園樹として見かけます。葉は、全縁で細いですが、シワがよってやや波打ち、枝先に集まってつきます。花は強い芳香を放ち、クチナシ、キンモクセイとともに三大芳香花に数えられます。街中でも季節を感じる身近な植物で親しまれています。