青空がきれいに見える冬の森(写真左)
冬でも葉が落ちない樹木/カシワ(1)(写真右)
一年の中で、最も寒い時期となりました。外に出ると、寒さで体が縮こまり、油断すると肩が凝りそうです。
今日から森歩きを始める彼女は、入社以来30年間、一つの会社で働いてきました。数年後に定年退職を控え、色々なところへ出かけようと計画していたところ、パンデミックの影響で、それとは真逆の生活に一転。気づけば3年もの間、同じ状態が続いてしまったそうです。いい加減この状況を打開したいとネット検索していたところ、この森歩きを見つけた、とのことでした。
――それでは、出発しましょうか。
―はい・・・・、久しぶりで、ちょっとドキドキしています。
――楽しみながら、無理のないペースで歩いていきましょう。
―はい。
――久しぶりということですが、どのぐらい久しぶり何ですか?
―3年ぶりですね。在宅勤務も続いているので、ほぼ家の中に閉じこもったままの生活になりました。
――よく耐えましたね。
―母が一緒に住んでいたので、救われました。でも、友達とも会わなかったですし、遊びに出かけることさえもしなかったんで・・・。なんだか味気ないというか・・・、面白みがないというか・・・、季節感さえ無くなってしまったようです。
――辛かったですね。これから思う存分、季節の移り変わりを楽しんでいきましょう。
―ぜひ、そうしたいです。
と彼女は答え、一緒に、森の中を歩いていきました。
―久しぶりに、一面に広がる青空を見ました。こんなにも空は青いんですね。
――今日は真っ青ですね。森の中からは、ちょうど今の季節が一番よく空が見えるんです。
―確かにそうですね・・・、今日からこの森歩きを始めたものの、ここに来るまで、葉っぱのない森に行って、いったい何があるんだろうと思っていたんです。正直、スタート時期を間違えたかなぁと・・・。でも、実際来てみると、葉っぱがないからこそ、こんなにもよく空が見えるってことが分かりました。
――その通りです。
―それと、森の中がこんなにも明るいのかと驚きました。何と言っても、お日様が暖かくて、体がポカポカして気持ちがいいですね。
――はい!冬ならではの自然の有難さを感じますね♪
と、話しながら、さらに森の奥へと進んでいきました。すると、
―あれ?枯れてるのに、葉っぱが落ちていない木がありますよ。病気ですか???
――ああ、この木ですね。これは「カシワ」という名前の樹木です。秋になると黄葉して枯れるんですが、新しい葉っぱが揃うまで、枝に残ったままなんです。
―冬になっても葉っぱが落ちないんですね。
――そうなんです。こういう特徴から、家族の繁栄の象徴だったり、葉守りの神が宿る木などと言われたりして、縁起の良い木とされてきたんです。昔は、庭木として植える人も多かったようですよ。
―なるほど・・・。もしかして、「かしわ餅」の「かしわ」って、この「カシワ」の木の葉っぱですか?
――そうなんです。「子どもの成長」と「家族の繁栄」を願って使われているのと、食べ物を包むので、葉が持つ抗菌・防腐作用も利用しているんですよ、柿の葉寿司のように。
―なるほど・・・・・・、あの葉っぱは飾りじゃなかったんですね。こうした意味があって使われていたとは・・・・・・。人を大事にする文化や、真心が伝わってきます・・・・・・・・・・・・。この木のおかげで、日本の行事や歳時を知れて、いろいろな季節を体験した感覚を味わいました。ほんと久々に、楽しいなあと思えて・・・、そう思えたら、退職までに行きたいところや、やりたいことがたくさんあったんだってことも思い出すことができました・・・・・・。なんか・・・・、知らないうちに自分自身を楽しませること自体忘れてしまっていたんだと・・・・。思い出すことができて、良かったです。
と、彼女はほっとしたようでした。
人と会わず、外出もしないでいると、どんなに健康な人でさえ、少しずつ気分は沈みやすくなるように感じます。しかも、それが3年間。楽しいと思える気持ちや、やりたかったことなどさえ忘れてしまう長さのようです。
でも、大丈夫。森は、人としての感覚を、ちゃんと思い出させてくれます。現状を打開しようと歩き始めた彼女に、季節感や、退職までに計画していた望みを思い出させてくれました。
これから一年間、森を楽しんでいきましょうね。
ブログ執筆者 竹内啓恵
https://jumoku.co.jp/info/b201906-2/
~森のメモ~
(1) カシワ ブナ科コナラ属
Quercus dentata
高木~小高木。北海道~九州の温帯に自生。陽当たりの良い山野に生えます。葉は鋸歯があり互生、その大きさはコナラ属の中で最大になります。端午の節句でお供えされる「かしわ餅」は、この樹木の葉で包まれています。誰もが一度は手にしたことがあるのではないでしょうか。