この夏は、カラッと晴れた日よりも、ザアザアと雨の降り続く日の方が多かったように思います。今日の森歩きも、辛うじて雨は避けられましたが、曇天の空模様になりました。
今日から森歩きを始める彼女は、大学生で上京した後、そのまま就職、結婚、出産と、さまざまなライフイベントを経験し、もう長いこと森に足を踏み入れなかったそうです。ようやく自分の時間が取れるようになり、子ども達を自然の中で遊ばせたいという思いから、この森歩きを始めようと思ったそうです。
さて、そんな彼女は、この森でどのような体験をするのでしょう。
――今日から1年間、毎月1回、この森を歩いていきます。よろしくお願いします。
―こちらこそ、よろしくお願いいたします。
――今日は曇り空ですが、晴れた日に比べて、過ごしやすいと思います。
―涼しいので、このお天気で良かったです~。久しぶりに森の中を歩くので楽しみにはしていたんですが、高校を卒業してからずっと都会の生活の方が長くなってしまって、夏はエアコンのきいた部屋で過ごすことが定番になっていたんで・・・。
――なるほど。夏に、屋外を歩くことが少なかったんですね。
―はい。
と言った後、今の生活について語ってくれました。彼女は、先月、3年ぶりに実家へ里帰りをしたそうです。両親や兄弟にも会え、とても楽しかったようですが、何よりも、自然の中で生き生きと駆け回る子ども達の姿を見た時に、ハッとしたそうです。というのも、彼女自身、高校生まで自然豊かな環境で育ってきた経験があったものの、子ども達は、全くそういう経験がないまま今に至っていることに気がついたそうです。
―今思えば、子どもの頃は、自然の中で暮らしている生活だったので、近所の子ども達と当たり前に遊んでいました。でも、都会では、自然環境へ大人が子ども達を連れて行かない限り、子ども達はなかなか自然を経験できなかったんですよね。
――そうですね。
―なので、まずは、気軽に出かけられる森を私が歩いてみないと、どこへ子ども達を連れて行ったらいいか分からないと思ったんです。
――そうなんですね。
―子ども達だけの自然倶楽部とかに入れてもいいんですが・・・、先月、実家に帰ったら私も自然が恋しくなったし、自分のことも振り返りたいと思って・・・。
と、続けて話してくれました。こうして、森の中を歩いていくうちに、彼女の口数は少しずつ減り、足取りは重くなっていきました。そこで、カウンセラーは立ち止まり、
――私たちの足元にも、小さな森がありますよ!
―あ、かわいい~。苔ですか?
――はい、「スギゴケ」という名前の苔です。フワフワしてますよ。
と、しゃがんで、スギゴケに触ってみました。彼女も同じようにしゃがみ、それに触ると、
―あ、ほんとだ。気持ちがいいですね。苔っていうと、苔玉や京都にあるような庭園のイメージがありますが、森でも、こうやって見つかるものなんですね。
――はい。今日の発見ですね!
―はい(笑)・・・、それと私にも発見が・・・。いかに自分の体が鈍っていたのかを感じています。普段、全然歩いてきてなかったんだなって・・・。あ~明日は、ひどい筋肉痛になりそうです・・・。
――今日は、ここで折り返しましょう。
―はい。この森で、少しずつ、体力をつけていきたいと思います!
と、彼女ほっとした声で、1年の目標を伝えてくれました。
子育てしながら仕事を抱えるお母さん方は、日々の生活のなかで、自分に費やす時間はほとんどないと思います。子どもを抱き上げたり、重たい荷物を持ったりすることで、自然と腕の筋肉などはつくようですが、長時間立ち続けたり、歩いたりする筋肉などは、意識して行わないと普段の生活だけではつきにくいのではないでしょうか。森歩きは、一見簡単そうに見えますが、実は、コンクリート道路のような平坦な道を歩くのではないため、普段使わない筋肉を知らないうちに使っているのです。例えば、木の根っこや石を跨いだり、枝や葉っぱの下を屈んで歩いたり、坂道を登って降りたりする動作は、何気に足の上下運動や屈伸運動になっていたりするので、普段このような運動をしていないと、いつの間にか筋肉が悲鳴をあげてしまうようなのです。今日の彼女もまさしく、この現象が起こったのではないでしょうか。森歩きは、自分の体力や体についても振り返る良い機会になりますね。
これから1年間、体を労わりながら森を楽しんでいきましょう。
ブログ執筆者 竹内啓恵
https://jumoku.co.jp/info/b201906-2/
~森のメモ~
(1) スギゴケ スギゴケ科スギゴケ属
Polytrichum juniperinum
山地から高山帯の明るい地上に多いこけです。雌雄の生殖器官は別々の茎の上にできます。