生きる大切さを森で

雨天後のクスノキ林冠下(1)

雨天後のクスノキ林冠下(1)

雨天後の林内

雨天後の林内

このところ、全国的に雨模様の日が続きますね。この森歩きも、雨量の多い日や風が強い場合は、やむを得ず中止したり延期したりすることがあります。じつのところ、今日の森歩きは、先週行う予定だったのを、急遽、台風の接近で中止となり振り替えたのです。
さて、今日の彼女は森歩きを始めて6回目。半年間歩き続けて自然が好きになり、毎月一回、ここに来ることをとても楽しみにしているようです。多少雨が降っても、環境に慣れたせいか屋外へ出ることを厭わず、かえって、森歩きが無くなった方が落胆するようです。
そんな彼女に、今日の森は、どんなことを話しかけてくれるのでしょうか?

―先週は、これが延期になってがっかりしました。

――そうでしたか。その分、今日は大いに楽しみましょう!

―はい。今日は雨が降らずに良かったです。と言っても、先週は、ここに来る気満々だったんですよ。

――えっ!?あんなにお天気が悪かったにもかかわらずですか?

―はい・・・、そんなに深く考えていないというか・・・、毎日、会社に通っているせいか、既に決まっていることに対しては行くのが当たり前だと思っていました。なので、台風や大雪の時でも、あ、地震があっても、電車が動いてさえいれば移動できるし、電車に乗れば、私のような人達が大勢いるので・・・こんな感覚で、森歩きも考えていました。

――そうでしたか。

―先週、いただいたメールに、「台風の影響で、森の中を歩くには危いと考えられるため」と書いてあるのを読んで、「あ、屋外に出たら危ないんだ」って、その時、改めて思いました。それまで会社に行くのにも、毎日のルーティンワークの一つだと思っていたので何の疑問も持たなかったです。ましてや、自分の身の危険すら考えたことなかったです。

――これまで、無事に過ごして来れて良かったですね。

―本当にそう思います。

――そういえば、さっき、集合場所にあったクスノキの根もとに、緑色の枝が落ちていたのを見ましたか?

―はい、いったい誰が折ったんだろう?って思ってました。

――確かにそう思いますよね。実は、あれは、クスノキ自身が枝を落としたんですよ。

―そうなんですか?

――強風の時に小枝を落とすことによって風当たりを少なくして、あれ以上に大きい枝や幹本体が折れたり倒れたりするのを防ぐ働きをしていると考えられているんです。しかも、クスノキが持っている樟脳の成分は、防菌性、防虫性の強い物質なので、枝が折れても、その折れた傷口から病原菌などの侵入を防ぐ働きをして、樹勢を衰えさせずに回復させているんです。まさに、生き残る戦略を自ら行っているんですね(2)。

―なるほど!悪天候の時は、自分自身の安全を考えて、強風にも耐えられることをわざと行っているんですね・・・・・・。木は、命を大事にしながら生きているんですね。

――そうなりますね。

と、話し終えて静かに森の中を歩いていると、また、彼女が話し出しました。

―どんな状況でも、当たり前のように通勤していましたけど・・・、思えば、朝の電車がひとたび遅れたりすると、だんだんと電車内も混んでくるですよね。だけど、混んでいても、それがホームに到着すれば、人は我先にと乗り込もうとするんです。改めて考えれば、そういう行為も危ないですよね・・・・・・・。電車に乗れたとしても、ノロノロ運転で走るので時間はいつも以上にかかるし・・・、そうやってなんとか会社に着いても、疲れてぐったりしてしまうんです。さらに、遅刻して行くから短い勤務時間内で仕事を行おうとするし、そうすると、焦って間違ったりもして・・・、仕事の効率が何だかんだと悪くなるんですよね・・・・・・・。

――なるほど、大変な一日になりますね。

―だったら、その日、どうしても行かなければならない仕事がなければ、思い切って休んだ方が自分は安全だし、仕事の効率もいいんじゃないかと思いました!こうやって考えないと、自分を大事にしようとすら思わなくなりますね!自分を大事にしなければ、自分の仕事にも、他の人に対しても、大事にしようという思いは湧かないですよね・・・・・・・・・。今まで生きることをしてこなかったのかな???んんん・・・・、それはまずい!

と、ひといきに話し終えました。そして・・・、

―それにしても、あのクスノキは、どのように自分を大切にする術を身に着けたんでしょうね。

と、笑顔になりがら、不思議がってました。

今の社会は、私たちにとって便利なところなのでしょうか?極端な言い方をすれば、どんなことが起きようと、どんな天候になろうと、朝、とりえず起きて電車にさえ乗れば、私たちは会社に行くことができてしまいます。ただ、そこには自分達の安全や、その日の体調、そして、気持ちなどは存在していないのではないでしょうか。ある意味それは、自分をないがしろにしている行為なのかもしれません。ですが、少しでも自分のことを大事にするようになれば、万が一、大変な状況に置かれたとしても、それを乗り越えいくための術を考えて、生きようとするのだろうと思います。
これからの半年間、彼女はどのような出会いが待っているんでしょう。来月は、暑さも最大限!熱中症にならないように歩きましょうね。

 

ブログ執筆者 竹内啓恵
https://jumoku.co.jp/info/b201906-2/

~森のメモ~

(1)クスノキ クスノキ科クスノキ属
Cinnamomum camphora
⾼⽊。関東~九州の暖温な地域の⼭地に⾃⽣しますが、公園やお寺、神社、街路樹にも植えられ、 普段から⽬にする機会が多いです。昔は樹⽪から樟脳を抽出し、防⾍剤として利⽤していました。 葉をちぎるとツンとした爽快な⾹りがします。イライラしている時こそ、嗅いでみてください︕

こちらのメモは、下記のリンク先にも貼ってあります。クスノキについての記事ですが、今回のエピソードとはまた異なりますので、良かったらご覧ください。
「森の中の不思議な巡りあわせ」(2020年7月)

(2)小枝折れによる樹木の保身
クスノキと同じことを、クヌギやコナラも行っています。見にくいのですが、写真右の林床には、コナラの小枝がいくつか落ちているのがわかります。雨天後の森や、クスノキは神社や街路樹に植栽されていることが多いので、これらの樹木を見つけたら、地面も注意して見てみてください。