風薫る新緑の森

風薫る新緑の季節は、森へ出かけるだけで気分が爽やかになりそうです。この気分を仕事の合間に味わえれば、もしかすると仕事の効率は良くなる?かもしれませんね。
今日の森歩きの彼女は、小学生のお子さんのいる働くお母さんです。ようやく社会は、コロナ前の生活スタイルへ戻りはじめ、職場へ出社する人数も増えてきました。しかし、彼女の会社はコロナ禍に在宅勤務が導入されてから、このスタイルがすっかり定着してしまったそうです。子育て中や遠距離通勤の社員は、この働き方を気に入っている一方で、職場の人間関係が希薄になってきていることに不安があるようです。彼女もそう感じている一人で、何とかしたいと思って、この森歩きを始めたとのことです。
この季節の森は、いったいどのようなことを彼女に伝えるのでしょう。

――ちょうど新緑の季節からのスタートになりますね。

―緑に囲まれて歩けるなんて、嬉しいです!

――ほんと!緑がいっぱいですね。

―今、子どもは幼稚園に通っているんですが、マスクを取って遊べる場所に行かせたいと思っていて、よく、こういう自然の所へ行くようにしているんです。

と、彼女は子供のことから話し始め、それから話題が仕事へと変わっていきました。

―在宅勤務が当たり前になってから、職場で仕事をしていた時には感じなかった同僚達との関係に、微妙な違和感を覚えるようになってきたんです。オンラインを使って会議をしたり、時々、出社して同僚と会ったりはしているんですが・・・・・・なんか・・・。

――なるほど。

―特に仲が悪くなったとかではなくて、会った後、なんかモヤっとするんですよ。

――すっきりしないんですね。

―はい。こういうちょっとしたことを言えなくなっている自分がいるんですよね。

――そうなんですね。

と、カウンセラーは返答した後に、ゆっくりと深呼吸をしながら立ち止まって樹冠を見上げました。その仕草を見た彼女は、一瞬、首を傾げてから、そこに充満する香りに反応したようでした。

―何か匂いがしますね~。

――はい!あそこの上の方を見て見てください。

―あっ!あんなところに、白い花が咲いてます!緑の葉っぱだけかと思っていたので、花があるなんて思いもよらなかったです。

――確かに。もうちょっとこれから花の数が増えていくので、歩いていても気づき易くなると思います。この花の樹木は、「エゴノキ(1)」と言います。花が咲き終わった後にできる実は、「サポニン」という毒が含まれているんですよ。その実を口に入れると「エグい」ということで、この「エゴノキ」という名前が付けられたと言われています。

―え!毒が含まれてるんですか。

――はい、くれぐれもこの実を食べないようにしてくださいね。でも、この実をすり潰すと泡が立って、石鹸の替わりとしても使えるんです。

―え~!!そんな風にも使えるんですか。

――はい。さらに、この実が大好きな鳥もいるんです。

―は~~~~~!!!毒があるけど、それを食べる生き物がいるなんて・・・・・不思議ですね・・・・・・・・・・・・・・・・・・。今まで、子供とこういう所に来ても、目的地まで直行してしまって、その道中をこうやって見て歩くことはしたことがなかったです。でも、こうやってエゴノキの花を教えてもらっただけで、いくつもの驚きがあって楽しいですし、子供にも教えてあげたいなって思いました。

と、彼女はじっくりとエゴノキの花を見つめていました。

―・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、あれっ!?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、

と、さらに彼女は何かに気づいたようです。

―もしかして、オンライン会議や職場で同僚とは会うけれど、みんな会議の目的を話し合うだけで、こうやって普通に話をすることがなくなってしまっていたような・・・。目的だけを話すって、一見効率が良さそうだけど、世間話や余談があった方が、人との関係が潤滑していくんじゃないかなって・・・・・・今、思いました。思い切って、ガンガン世話好きおばちゃんキャラを出しちゃおうかな~(笑)。

と言って、彼女はすっきりした表情になりました。

コロナによって、多くの人は、人とふれ合う機会が少なくなってしまいました。そのせいか、シンプルな人との付き合い方をうまく出来なくなってしまっているのではないでしょうか。でも、大丈夫!何かモヤっとするような感覚があるなら、そのサインを逃さずに、誰かにその気持ちを打ち明けてみるのがいいのではないでしょうか?もし、それを躊躇するなら、ちょっと森へ出かけてから挑戦してみてもいいのかもしれません。
これから一年、四季を楽しんでいきましょうね。

 

ブログ執筆者 竹内啓恵
https://jumoku.co.jp/info/b201906-2/

~森のメモ~

エゴノキ  エゴノキ科エゴノキ属
Styrax japonica
小高木~高木。北海道南部~沖縄に自生。里山や雑木林に生えており、公園や庭木でもよく見かける樹木です。5月~6月にかけて下向きの白い花が咲き、辺りに強い香りが漂います。花が咲き終わると、それらは球形の白い果実となってぶら下がる姿になり、この可愛らしい姿を見るのが楽しみです。