梅雨曇りの森のなかで

コアジサイ(1)の花

長い間、同じ場所に居続けていると、いつの間にか、そこの風土や考え方が体に染み込み、それが当たり前なんだと思い込んでしまうことがあります。
今日で3回目の森歩きをする彼女。半年前に、会社初の女性部長となりました。コロナの影響で、在宅勤務制度が導入されてきたそうですが、彼女にとっては、それが部下とのコミュニケーションを阻む原因となっていると、前回、話してくれました。
いったい梅雨曇りの森は、今日の彼女に、どんなことを語りかけてくれるのでしょう。

――・・・頑張って、子育てしながら仕事を続けてきたんですね。

―ある時、全てがギリギリな状態に陥って、家族のためにも、自分自身のためにも、仕事を辞めた方がいいんじゃないかって、真剣に考えた時期があったんです。

――うん、うん。

―でも、やっぱり職場の仲間達と、同じ目標に向かって、仕事を達成していくことが面白くて・・・、辞められなかったんです。そうこうしているうちに、去年、部長という役職に就くことができ、会社は、自分を評価してくれたんだと感じました。また、子どもたちが喜んでくれて、頑張ってきた甲斐があったんだなって、思えました。

――そうなんですね!

―子育てもひと段落したし、今度は、仕事に集中していくぞ!と思っていた矢先にコロナになって・・・。ただ、在宅勤務になり、定期的にビデオ会議も行っているんですけど・・・、なんか・・・、こう・・・、いま一つ、チームがまとまっていかないんですよ。

――なるほど。

―社長や同僚からは、「もっと威厳を持って、グイグイ部下を引っ張っていけ!」と言われるんですけど・・・。なんか、そういう態度に違和感があるんですよ。

と、彼女は、仕事の現状と、チームへのやるせない気持ちを丁寧に話してくれました。少し黙ったまま歩いていった後、カウンセラーは、ちょっと背伸びをして、遠くの方に目を向けました。すると彼女もつられて、その方向へと視線を移すと、白っぽい薄っすらとしたものに目を向けました。

―ん?何か、丸いフワっとしたようなものが見えますね!

――何か見えましたか?では、近づいて行きませんか?

と、二人は森の中へと進んでいきました。

―可愛い!小さな花がまとまって、一つの綿のように見えますね。つんつんと、触りたくなります!

――ほんとうですね♪

―この白い塊は、透明感はあるけど、ふわっとした柔らかさに暖かさが加わって、優しい様子が伝わってきます。

――素敵な表現ですね!

―なんか、ほっとします。

――この花は、「コアジサイ」と言って、アジサイの仲間なんですよ。

―へぇ~。アジサイなんですね。でも、いつも見る色鮮やかなアジサイと、なんか違いませんか?

――そうなんです!普段、私たちが目にするアジサイと、花の形が違うんですよ。馴染みのあるアジサイには、「装飾花(2)」といった飾り用の花が目立つんです。それは、受粉を手伝ってもらおうと、昆虫たちにアピールしているために、わざと色鮮やかで派手にしているんです。

―えっ!普段見ているアジサイは、花じゃないんですか!

――そういうことになりますね。

―知らなかった・・・。

――逆に、コアジサイは装飾花がなく、真の花だけで勝負してるんですよ。

―ということは、装飾花を付けなくても、虫がやって来るんですね。

――はい。虫だけでなく、私たちも、その飾らない素の花の姿に魅了されて、近づいて来てしまいましたね(笑)。

と、この説明を聞いた彼女は、何かを閃いたようです。

―飾らない素の姿。この半年間、「私」という素の自分で、仕事をしていなかったです!コロナや、ビデオ会議だからという理由じゃなくて、私自身が役職に就いてから、「上司とはこうあるべきだ!」という固定観念があったからなんですね。今まで、自分の上司は全員男性でしたけど、私は女性ですもん。部下の対応が違ったっていいんでした!これまで自分のやり方で、仲間との信頼関係を築いてきていたのに・・・。シンプルに、これからも、自分のやり方で、チームワークをまとめていけばいいんでした!

と、彼女は、力強く宣言してくれました。

長年、その会社の風土で培われた考えや習慣に、どっぶり浸かってしまうと、なかなかそこから離れられない難しさがあるように思います。ですが、それらが当たり前になってしまっては、視野を狭めてしまうのではないでしょうか。生活をしていくなかで、時々、新しい風や柔軟な考えを取り入れる心構えは必要なことだと思います。
彼女との森歩きも、いつもの日常から私たちを切り離し、少し遠くから自分達を考える手助けをしてくれました。今日、出会ったコアジサイは、一見、小さいけれど、上品な力強さが感じられ、その姿を見た彼女は、自分自身に重ね合わせたように推測します。これからチームをまとめていく、彼女の姿を想像するだけで、ワクワクしていきますね♪

ブログ執筆者 竹内啓恵
https://jumoku.co.jp/info/b201906-2/

 

~森のメモ~

(1) コアジサイ アジサイ科アジサイ属
Hydrangea hirta
低木。樹高は1m前後。関東~九州の温帯に自生し、丘陵~山地のリンナイや林縁で見かけます。葉に山形の大きな鋸歯があるのが特徴的で、葉の表面や葉柄に毛があります。花には装飾花がありません。

(2) 装飾花
生殖機能がなく色形が目立つ花を言います。ガクアジサイ(3)(写真)では、真ん中の青い部分が花で、その周りにある白っぽい4枚の花びらに見えるものが装飾花となります。

ガクアジサイ(3)ガクアジサイ アジサイ科アジサイ属
Hydrangea macrophylla
低木。関東南部~紀伊半島、高知などの温暖帯にみられます。庭木や公園樹、街路樹にされています。葉は、コアジサイよりも肉厚でつやつやで大きいです。4枚前後の花びら状のがく片(へん)をもつ装飾花を額のようにうけることが、名前の由来だそうです。