

先日まで、大雪が各地で発生していましたが、春は、もうそこまでやってきているように感じます。
今日一緒に歩くのは、大学2年生の女の子です。人と関わるのが苦手で、いまだに、大学では友達という友達ができないそうです。それゆえに、大学へ行ってもモヤモヤした気持ちが消えず、この2年間あまり楽しくなかったそうです。しかし、昨年受講した授業で、森林散策カウンセリングのことを知り、自然の中なら少しは人と話すことができるのではないかと思ったそうです。
そんな彼女も、今日で4回目の森歩き。これからどんなことが彼女を待っているのでしょう。
――だいぶ陽射しは暖かくなりましたが、まだまだ森の中は寒いですね。
―あっ、はい・・・・・・・。でも・・・、空気はすっきりして・・・気持ちがいい・・・です・・・。
――そうですね。空気がすっきりして気持ちがいいですね。
―・・・それに・・・、今日は・・・空がとても青いです・・・。
――本当ですね!見上げると、きれいな青い空が広がっていますね。
と、カウンセラーが答えると、はにかんだ笑みを彼女は浮かべました。
――空を見上げるのが好きですか?
―はい・・・。雲があれば、その形や動きを・・・見てしまします。
――そうなんですね。
―・・・季節によっても、雲の形や動きが違います・・・。
――季節によっても、雲の形や動きが異なるんですね。
―はい。でも、・・・こういう真っ青な空も好きです。
――好きなものがいろいろありますね♪
―あー(笑)・・・・・・・、青い空にぽつんと雲が浮かんでいたりすると、いったいどこから現れて、どこへ消えて行くんだろうと・・・。
――なるほど!空との会話を楽しんでいるんですね。
―えっ?空との会話ですか?
――はい、何気なく、空と会話をされていて、楽しんでいるんだなあと感じます。
―はぁ・・・。
と、カウンセラーの言葉に彼女は驚いたようでした。
――ところで、少し青さは違いますが、こんなものもありますよ。
と、カウンセラーは彼女に言いながら、足元の切り株に目を向けました。すると、
―わっ!!!・・・・・・すごいっ!!!
――これは、伐採した樹木の切り株にキノコが発生したんです。
―キノコぉ!・・・・・・・・・・あぁぁ、なんか、花びらのように見えます。
と、言った彼女は、その場にしゃがんで、キノコを一心に見つめ始めました。
それから、5分ほど経って、彼女はカウンセラーに尋ねました。
―これはなんという名前のキノコなんですか?
――それは、カワラタケと言う名前のキノコです。
―カワラタケ?・・・切り株に何層ものカワラタケが重なりあってて・・・、大きなバラのコサージュが置いてあるように見えました。いろいろな形や色があって、ずーっと飽きずに見ていられちゃいます。
――まあ!それほどまでに興味が湧きましたか!
―はい♪毎回、森に来ると、見たことのないものに出会えるので面白いです。
――会話も自然と弾みますね。
―あっ(驚!)・・・確かにっ・・・。自分でも驚きます・・・。こんなにしゃべっている自分に・・・・・・・。
――楽しいですね。
―はい♪
と、彼女は小さな声ですが、とても嬉しそうに返事をしてくれました。
それほど親しくない人と話そうとする時、あれこれ考えてしまって、結局話せなかったという経験をしたことはないでしょうか。ましてや緊張していたり、相手に不安を感じていたり、はたまた立場が上の人だったりすると、何気ない会話はしにくいものです。しかし、不思議と、自然の中では気持ちがやわらぎ、気づけばその場で感じたことを、そのまま、意識しないで言葉にしていたということが起こるようです。こういうことが起こると、なんだかほっとしませんか?
今日の彼女も、このような言葉のやりとりを、何度も、何度も、森歩きのなかで繰り返していくと、話す楽しみや話を聞く楽しさを味わっていくのだろうと思います。それは、彼女の自信につながり、これからのコミュニケーションに役立っていくのだろうと、願っています。そうなると、大学生活が楽しくなりそうですね。
ブログ執筆者
竹内啓恵 https://jumoku.co.jp/info/b201906-2/
~森のメモ~
(1)カワラタケ タマチョレイタケ科
Trametes versicolor
広葉樹の切り株や倒木、杭などに発生します。カサ(キノコの傘状の部分)は、直径1~5㎝程度のほぼ半円形。薄いですが、強靭な皮質で硬いです。表面は、同心円状に黒色、灰色、黄褐色などの微毛が交互に密生しています。現在は、使われていませんが、癌薬として開発されたクレスチンは、このキノコの成分から作られたものです。