生きる大切さを森で

色とりどりの景色は、「あっ」という間に過ぎ、今年もカウントダウンに入りました。年々感じることですが、月日の経つのは早く、一年がまたたく間に過ぎていくようです。
さて、今日で森歩きが2回目の彼女は、現在、介護休暇を取得中の40代の会社員です。これまで旅行などの理由で休暇を取ることはあっても、体調不良などの理由で会社を休んだことなどは一度もなかったそうです。それが、数か月前に彼女の母親が突然倒れ、その日を境に出勤できないまま、介護休暇へと余儀なくされました。以前の生活とはすっかり彼女の日常生活は変わってしまい、そのことを心配した彼女の友人が、今日の森林散策カウンセリングを紹介してくれたそうです。

――だいぶ寒くなりましたね。

―はい・・・、今年はいつもの年に比べて寒さが身に染みています。

――それは非常に寒いですね。

―でも、今日はどちらかというと、この寒さで森の葉っぱが全部落ちてしまってないかを心配してきました。

――なるほど。紅葉を楽しみにされていたんですね。

―はい!森へ出かけるのが楽しみで、そんな自分にも少し驚いていました。

――それはびっくりですね。

―はい・・・。いままで自然とは無縁の生活をしてきたので・・・。

――そうでしたか。

―旅行やデートとかで、自然の多いところへ行ったことはありましたが、進んで森へ行こうと思ったことはありませんでした。

――そうなんですね。

―友人がこれを紹介してくれなければ、こうやって紅葉した森を楽しみにすることすらなかったと思います。なので、こんな自分をとても不思議に感じます。

と、彼女は自分の気持ちを正直に話してくれました。冒頭でも少し述べましたが、彼女は俗に言うキャリウーマンで、新卒で入社してから朝早く出社しては夜遅く帰宅するという生活を長年続けてきました。幸いにも、彼女はご両親とともに暮らしてきたため、日常生活で困ることはなかったそうです。しかし、彼女の父親が数年前から自力で歩くことができなくなり、どこへ行くにも誰かが一緒についていかなければならず、時々彼女も付きそった時には、大変だと感じていたそうです。

―ここに来られる機会が得られて、本当に良かったなあと感じています。母が倒れたことで、すっかり自分の生活は一変してしまって・・・。実際に、父の面倒を見るようになってはじめて、母の負担がものすごく大きかったことに気づかされました。母は、私の生活面も支えてくれていた上に、父の介護を全部ひとりで背負っていて・・・、その労力の大きさたるや・・・愕然としました。年も年でしたし、なぜそのことに気付づけなかったのか・・・、今更ながら申し訳ない気持ちでいっぱいになりました・・・。一時期、自分もどうしたらいいのか分からなくなりましたし・・・。

――それはとても辛い状況ですね。

―はい。こんなにもしんどいと思ったことはなかったです。今でもどうしたらいいのか?と、途方にくれることもあるんですが、こうやって普段とは全く違った環境に来ると、現実を忘れられるというか・・・ん・・・忘れることはないんですが、それでもちょっとそこから気持ちが離れられるような気がして、とても落ち着くんですよね。

――それは何よりですね。

―しかも、今日のこの景色が、ものすごく癒されます。

と言った後、彼女はしばらく言葉を発せず、色鮮やかな森のなかを歩いていきました。そして、彼女は、時々、頭を上げ、林冠に連なる葉を見たり、道に生える低木へと視線を移したり、そして、林床に落ちている赤や黄色の葉に目を向けたりと、さまざまな色を見つけては、その方向へと体を動かしていきました。

―本当に不思議ですよね~。ただこうやって森の中を歩いているだけで、色鮮やかな木々や葉っぱが、おのずと目に飛び込んできて、気持ちが「わぁーっ」と明るくなっていくんです。

――本当ですね。

―あんなにしんどいなぁと思っていた気持ちもどこかへ吹っ飛んで、「また頑張ろう!」という気持ちにさせてくれます。

――元気づけられますね。

―はい!今までこの景色を知らなかったことが悔やまれますが、この時期に来られたことはとてもラッキーです。あ~~~、母や父にも、見せてあげたかったなあ・・・。

と、少し複雑な思いも抱えつつも、何とも明るく話す彼女の表情は、穏やかで、ほっとしていました。

突如、大切な家族が倒れてしまったことで、さまざまな現実に向き合っていなかければならない状況に置かれた彼女は、精神的にも、肉体的にも、とてもハードでキツイ状態だと思います。しかし、彼女が話してくれたように、自然の美しさは、一瞬でも、そのしんどい状況から気持ちを切り離し、明るい方向へと向かせてくれました。つくづく、自然というものは不思議だなあと思いますが、今回は何よりも、それを話してくれた彼女の感性の良さに、ほっとさせられる私が居ました。これから森を一緒に歩いていくなかで、さまざまな角度から自分自身を見つめていかなければならない時があります。その作業は、意外にも、今の状況よりも辛く、挫けそうになることさえあります。ですが、これから彼女の感性が、いろいろな気づきをもたらし、今よりもさらに良い方向へと促してくれるのではないかと思います。森を楽しみながら、一緒に考えていきましょうね。

ブログ執筆者
竹内啓恵 https://jumoku.co.jp/info/b201906-2/