森から文化や風習を学ぶ?

早いもので、一年の締めくくりの時期になりました。今年は、みなさんにとってどのような一年になったのでしょうか?

この日、森歩きをする彼女は30代の大学生です。4年前までは、普通の会社で働いていましたが、新型コロナウイルス感染症の流行で在宅勤務をしたことがきっかけで、人生の進路を変えました。現在の彼女は、料理を学びはじめて3年が経とうとしています。最近になって、「料理と自然には、密接な関係があるのではないか?」と考えるようになったそうです。そんな彼女は今日が初めての森歩き。冬の森はどのようなことを伝えていくのでしょう。

――今日から森歩きがスタートですね。

―はい、よろしくお願いいたします♪

――葉っぱがだいぶ落ちて、今日は明るい森になっています。

―あーーー、もう葉っぱのない季節になったんですね。普段、そこまで木を見ることがなかったので、そう言われてみると、確かに明るい様子ですね。

――ちょうど先月の末頃が、紅葉真っ盛りだったんですよ。

―それは見てみたかったですね。紅葉シーズンになると、テレビやニュースで特集されますが、毎年それを見てから自然に目を向けている感じでした。

――そうでしたか。来年は、ここでの紅葉を楽しめますね。この一年で、色々な自然の変化を感じられると思います。

―初めての体験ですので、どんな様子になっていくのかが楽しみです。

――わくわくしますね!

と、カウンセラーが答えてから、彼女は社会人だった頃から現在に至るまでのいきさつを丁寧に語ってくれました。

彼女がまだ20代の頃、インターンシップ先の職場で、一人の女性と出会ったそうです。その方は部署のトップに就き、何人もの部下と業務を進め、毎日とても慌ただしく働いていました。しかし、定時になるときっちり職場を離れ、子育てと家庭での時間も大切にしていたそうです。その姿を見た彼女は、将来自分もそうなりたいと憧れるようになり、翌年、その会社に就職したのです。無我夢中でそれから働いてきたものの、仕事の忙しさを理由に、食事のほとんどを外食や即座に食べられるもので済まし、気づけば慢性的な倦怠感と不眠に悩まされるようになりました。ですが、コロナで在宅勤務になってから、食事を自分で作るようになると、しだいに倦怠感や不眠が軽減され、さらには、今まで挑戦したかったことへの意欲も湧いてくるようになったのです。

―そう思ったら迷うことなく、その1年後に、調理や栄養を学べる大学に入学してしいました。

――ずいぶん大きな決断をされましたね。

―本当にそう思います。普通に働いている人達から見れば、「いったい私は何を考えているんだ?」と思われているんだろうなと感じる時もあります。でも、こうやっていろいろな勉強ができているので、自分の選択は間違っていなかったとも思います。

――得るものがたくさんあるんですね。

―はい、本当に多くのことを学べ、毎日が面白いです。特に、料理には色々な野菜を使うんですが、料理と季節は切っても切れない関係があると感じました。これって当たり前のことなんだと思いますが、大学に入る前までは全く気づかなかったというか、意識すらしてこなかったんです。今年は、プランターでの野菜作りに挑戦して、植物の成長する様子を観察しました。でも、それだけでは何かが足りないように感じて・・・もっと自然全体を学んでみたいと思ったんです・・・・・・。

―はい。

――それにしても、これまで色々な経験をされてきましたね。

―そうですね。あらためて自分のことを話してみると、よくまあここまでやってこられたものだと思います。でも、今は健康になったし、やりたいことが出来ているので、それだけでも嬉しいです。

と、カウンセラーは返答した時、小さな花がそこに咲いているのを見つけました。そして、その樹木に近寄っていき、彼女にもその花が見られるように、樹木の葉をめくりました。

―わぁ~、白い花が!!!こんなに寒い時期でも咲いているんですね。

――はい。この樹木は、ちょうど11月~12月頃に花が咲くんですよ。

―あれっ?この葉っぱって、クリスマスリースに飾るものですか?

――似ているんですが、それとはちょっと違うんです。鬼が、この葉の鋭いギザギザを嫌うと言われていることから、節分になると、家の軒下や扉などに葉を飾り、邪鬼払いとして使うんですよ。

―あ~、確かに!魚の頭と一緒にギザギザの葉が扉に付いている家を見たことがあります。

――はい、あれはイワシの頭です。鬼は、あの独特なイワシの臭いも嫌うと言われているので、ああやって使われるようです。

―なるほど!面白いですね。イワシは栄養があって、佃煮にしても美味しいですが、こういう文化的にも使われるんですね!・・・・あれ?では、あのクリスマスで見る葉っぱは何の木なんですか?

――あれは「セイヨウヒイラギ」と言います。赤い実が冬に付いて、春に花が咲くんですよ。

―へぇ~。花の時期が違うんですね。

――はい。また、日本のヒイラギはキンモクセイと同じ仲間なので、香りが少しあります。

―わっ!確かに!ほのかな香りが♪

――セイヨウヒイラギの花は香りがしないんです。でも、同じようにギザギザの葉っぱなので、リースには、邪鬼払いとして使われるようです。

―わ~それぞれに意味が込められていたんですね・・・。植物は、文化風習にも関わりがあるんですね~。

と、言った彼女は、少し何かを考えているようでした。そして、

―私たちの周りには、こういった植物を用いた文化や風習がもっと残っているはずですよね。それらは季節とも関係しているでしょうし!わぁ~、これからもっとこういうことを知りたくなりますね~。料理をする時や食事をする時の心構えも変わりますもん!ますます森歩きが楽しみになりますね~♬

と言った彼女の目はきらきらと輝き、足取りも軽やかになっていきました。

実は、自然との関わりが薄くなってきた現代でも、自然の存在は至るところにあります。お正月に登場するお節料理では、使われている食材に意味があり、重箱の段によって詰める料理も決まっているのです。そして、どの料理にも私たちの暮らしの幸せと健康への願いが込められています。そのことを知っただけでも、心がほんわかしてくるようです。

今日の彼女は、実際に森を歩いたことで、これまで目にしたこのある植物の本来の姿を知ることができました。今後、彼女がその植物の一部分としか出会わなかったとしても、不思議と、その本来の姿や周辺環境などが彼女の脳裏に浮かびあがり、自然を立体的に感じられるようになっていくのではないでしょうか。そうなると、彼女の情緒や心の豊かさも増していくように思います。これから、彼女が追及していく学問の中で、この森歩きがより良いものになっていくことを願っています。たくさん楽しんでいきましょうね!

ブログ執筆者
竹内啓恵 https://jumoku.co.jp/info/b201906-2/

~森のメモ~

(1)ヒイラギ モクセイ科モクセイ属
Osmanthus heterophyllus
常緑広葉樹の小高木。関東地方~沖縄に分布します。庭木、生け垣、公園樹としても植栽されます。葉は不分裂で対生です。葉には鋭いトゲトゲがあり、このトゲが鬼を追い払うとされ、節分の飾りにイワシとともに使われます。この時期、クリスマス飾りで見かける赤い実のなるヒイラギは、「モチノキ科」の「セイヨウヒイラギ」といい、春に花が咲く別の種類の樹木です。