森での白い息

マスクを付けて生活することが当たり前になりました。この2年間、身近な人以外の鼻や口を見る機会がなくなったように思います。
今回、一緒に森歩きをする彼女は、運動不足解消をきっかけに3か月前から森林散策カウンセリングを始めました。今年で勤続10年目を迎える彼女は、仕事や同僚との関係は良好で、2年前から新人研修も担当し始めたそうです。しかし、前回の森歩きで、若手社員との関係が今一つしっくりいかないことを話してくれました。そんな彼女に、今日はどんな出会いが待っているのでしょう。

――立春が過ぎたとはいえ、まだまだ寒いですね。

―ほんとに寒いです~。ここに来るまでに足が冷えて、指もすっかりかじかんでしまいました。

――大丈夫ですか?

―この2年間、在宅勤務が増え、休日に外出することも減って、すっかり冬の寒さを忘れてしまってたんだってことを実感しました。もっと厚着してくれば良かったです。

――このまま歩けそうですか?

―はい、森に入って坂道を登ってきたせいか、体が少し暖かくなりました。

――良かったです。もう少しペースを上げて歩いてみましょうか!

―はい。

と、二人はいつもよりスピードを速め、歩き始めました。カウンセラーは、彼女の様子を見計らい、息遣いが荒くなってきたところで声をかけました。

――この辺りで少し息を整えましょうか!お互いに距離を十分とった後、マスクを外して深呼吸をしましょう!その際、鼻から、新鮮な空気を大きく吸うことを意識して・・・、その後、吸った息を、ゆっくり口から吐いていきましょう。それを5回以上やってみましょうか!

―はい。

彼女も、カウンセラーもマスクをとり、お互いのペースで深呼吸をし始めました。

――だいぶ呼吸が整ってきましたね。

―体もぽかぽかしてきました!それとは反対に、頭の中はすっきりしてきました!

――それは良かった。

―(彼女はカウンセラーに、ひと息吐いたところを見せて)・・・久々に、こういう白い息を見ました!懐かしいですね~(笑)。そう言えば、冬になると、朝急いで駅へ向かっている人達から、こういう白い息が出てたなーってことを思い出しました。それを見て、「今日は寒いんだな」ってことも感じさせられてたような・・・。今、みんながマスクをしているから、こんなことを見ることも、感じることもなくなっちゃいましたね。

――そうですね。

―こうやって呼吸をするだけで季節を感じたり、頭がすっきりできたりするなら、四六時中マスクをすることで、私たちはストレスを感じていますね。人との距離を十分にとっていれば、マスクを外して新鮮な空気を吸う方が、よっぽど体にとって良いことなんじゃないかと思いました。お互いの顔を見て話しをしても、ほっとするというか、相手が分かるというか、ちょっとした安心感が生まれます。

――そうでうね。私たちも初めてお互いの顔を見ましたね(笑)。

―・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。もしかして・・・、この安心感がないのかも・・・・・・・・・・・・・新人研修をした社員とに・・・。コロナ感染対策の方にばかり気をとられてて・・・、お互いの顔を一度も見たことがなかったです・・・。これって人と関係を作っていく時に、あまり良くないことですよね・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。感染予防を工夫して、基本的なことを押さえていかないといけない・・・。

と、彼女は力強く話しました。それから、何かに気づき、嬉しそうに

―あ!うっすらとですけど、ウメの甘い香りがします!

――あそこに咲いているようですよ。呼吸をするだけで、冬から春へと季節が変わりましたね。

―はい!

コロナが流行る2年前まで、私達は、野外で新鮮な空気を吸って吐くことを意識することなく、当たり前に行っていました。しかし、今ではそれも簡単にできず、私達は知らず知らずのうちに、季節感や人間関係を育むことを妨げてしまっているのではないでしょうか。今回の彼女が気づいたように、どんな状況でも、工夫を心掛けるだけで、生活に潤いが出てくるように思います。来月も、森の中でマスクを外して、たっぷりと、空気を吸いましょうね。

 

ブログ執筆者 竹内啓恵
https://jumoku.co.jp/info/b201906-2/

~森のメモ~

ウメ バラ科スモモ属(サクラ属、アンズ属ともいう) 
Armeniaca mume
落葉広葉樹の小高木。中国原産で奈良時代に渡来したと言われています。全国的に栽培され、サクラより一足先に開花します。ウメの花が咲き始めると春の気配が漂い始めますね。