秋の森に、木枯らしが吹きすさぶと、一瞬で色鮮やかな森へと変化します。
まだ一枚も葉がついていなかった冬の森から始めた彼女とも、今日で10回目の森林散策カウンセリング。子育てがひと段落し、職場では、専門職を活かし、若手社員を育てる立場としても活躍しています。けれども、人生の折り返しの時期による、体力の衰えや体の不調に戸惑いを感じているようです。冬からはじめた森歩きで、新緑の春を喜び、夏の木立に涼を感じ、色とりどりの秋を味わい、ともに季節を巡って参りました。
――森の中は、まさに実りの秋ですね。
と言って、黄葉したイロハモミジの前で立ち止まりました。
―ほんとに!こんなにも秋の黄葉は、美しかったでしたっけ?
と、彼女は頭上を見上げながら、その鮮やかな彩りに心を奪われたようでした。
―今だったら、この黄葉した「黄色の葉っぱ」が描けそう。
――お~!あの深みのある黄色ですね。
―小学生の頃、秋の写生会で黄葉した葉っぱを描いたことがあるんですよ。絵の具を使って描いたんですけど、どうしても明るい黄色でしか描けなくて。こうほっとした、温かみのある秋の黄色が出せなくて、モヤモヤした思い出があるんです。今だったら、いろんな経験をして年をとってきたから、あの色が出せるなあ。
――秋の鮮やかな彩りは、私たちの心をウキウキさせますし、和ませてもくれますね♪
例えば、人間の年代をこの四季で現してみると・・・私たちが歩きを始めた冬の森は、生まれる前の段階で、春になってようやく赤ちゃんとして生まれ、大人へと成長していきます。葉っぱが青々とした夏は、若さ溢れる働き盛りの年齢のように、パワフルなエネルギーを感じます。だけど、徐々に年齢を重ね、秋になると、若かった時のような動きもできなくなるように、葉は落葉し、土へと返っていきます。ただ、収穫の秋と言われるように、ドングリやクリをはじめとする森の恵みがあり、落葉前の色づいた葉は、森に美しさと温かさをもたらし、訪れた人々を喜ばせてくれるのだと思います。
―秋って、いいなあ。
と、つぶやくと、しばらく沈黙となりました。そして、
―ここ数年、若い時のようなテキパキさがなく、思うように体が動かなくなってきたことに落ち込んでいたんです。だけど、自分がやってきたことが、いつの間にか森の恵みのようなものになっていたとは・・・。
これから若手たちに還元していかないとですね。
誰だって、以前できていたことが、徐々にできなくなっていくことを目の当たりにすると、戸惑い、落ち込みます。でも、年を重ねて得てきた経験は、若い時には絶対得ることのできないものになるのです。それは、私たちの生活に欠かすことができないものであり、私たちの心をも豊かにしてくれるものなのです。
彼女は、毎月森を歩くことによって、自然の四季を味わってきました。だからこそ、黄葉の美しさに心を奪われると同時に、どこかにひっかかっていた子どもの頃の思い出が思い起こされたのです。また、ゆっくりと時間をかけた森歩きによって、カウンセラーの言葉を実感でき、自分の価値に気づいたのです。彼女が、どのようにその恵を還元していくのか、これから楽しみですね。
ブログ執筆者 竹内啓恵
https://jumoku.co.jp/info/b201906-2/
~森のメモ~
イロハモミジ ムクロジ科カエデ属
Sapindaceae Acer palmatum
東北南部~九州の温暖帯に自生。日本の秋をいろどる代表的な樹木で、一般的に「もみじ」というと、この樹種を思い浮かぶ人が多いです。和名の由来の一つに、葉の5~7に裂ける裂片を「いろはにほへと」と数えたことと言われています。