森の中のつながり

タマゴタケ

 

朝晩の寒暖差が少しずつ大きくなって参りました。森の中では、いろいろな場所で、秋の訪れと出会うようになりました。
今回で、森林散策カウンセリングが4回目の彼女。夫と協力し合い、家事・育児をしながら企業で働いています。数か月前、管理職に抜てきされたそうですが、前回歩いているときに、家族や部下との間でギクシャクすることが増えたことを話してくれました。忙しい日々を過ごされているなか、今日も目を輝かせてやってきました。

 

――森の中も、だいぶ冷んやりしてきましたね。

―はい、イライラもなく、すっきりした気分です!

と彼女は言って、大きく深呼吸をしました。

―はぁ~、気持ちいい!
最近、家でも、職場でも、イライラすることが多くて、
「あー苦しい」って思って、ハッとする自分がいるんです。
こんなこと、管理職になるまでなかったんですけどね。
どっちかっていうと、今、こうして歩いているような自分の方が自然で・・・。

――今、こうして歩いている自分って、どんな気持ちなんでしょうね?

―穏やかな・・・、ゆったりした気持ち・・・。
今だったら、こう、周りを見て、自然を楽しむ余裕があるっていうか・・・。

と、彼女は私たちの周りをぐるっと見回してみました。すると・・・

―あ!赤いものがある!

と言って、何かを見つけたようです。一緒に近づいていくと、

―わぁ、きのこだ!まっ赤なきのこ!絵本に出てくるようなきのこですね!

――鮮やかな色ですね!
これは、タマゴタケ(1)という名前のキノコです。かがんで横から見てみませんか?
地面に白いものが少し見えますかね。はじめは、この白い部分がタマゴのような形で現れて、その中から、今見えている赤い部分とそれを支えている軸が伸びていくんですよ。

―へえ~、不思議ですね。

――キノコって、ポツンと現れて、ひとりぼっちで生きているように見えますよね。でも、実際は、周りの樹木たちと助け合いながら生きているんです。土の中の栄養を吸収して、「チッ素」と「リン」(2)を樹木に与えています。反対に樹木は、光合成で生産した「糖」をキノコに与えています。生きていくために、自分たちで生産できないものを他からもらって、自分たちが生産できるものを、その相手に与えている共生関係(3)が成り立っているんです。

―きのこと樹木。全く違う種類の二つのものが、助け合って生きている・・・・・。
ん~・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なるほど。
実際に目の前で、きのこと樹木の関わりを教えてもらうと、納得するものがありますね・・・。しかも、「あなたはどうなの?」って言われているようで・・・。

と、目を潤ませ、けれど、はっきりとした口調で言いました。

家庭と仕事を両立させ、頑張ってきた彼女でしたが、どうも空回りしているようでした。けれども、森歩きをするなかで、本来の姿をとり戻し、赤いキノコを見つけることができました。それによって樹木との共生関係を知り、家族と職場との人間関係に大切なことを見失っていた自分に気づき、自身の反省とこれからの決意を表すことができたのです。

いくら頑張っても、ひとりでやり遂げられる力は限られています。森歩きを通して、そのことに素早く気づいた彼女の鋭敏さに、管理職として抜てきされた意味を感じます。これからが楽しみですね!

ブログ執筆者 竹内啓恵
https://jumoku.co.jp/info/b201906-2/

 

~森のメモ~

(1)タマゴタケ:ハラタケ目テングタケ科
Amanita caesareoides
夏から秋にかけて発生します。見た目が派手ですが、食べられます。ただ、ベニテングタケという毒キノコとも見かけが似ているので、素人判断で食べないようにしてください。

(2)チッ素とリン
植物に必要な三大栄養素に、窒素、リン酸、カリウムがあり、チッ素とリンはそのなかの二つです。これらの養分を土壌中の根から吸収して、植物は成長します。

(3)共生
植物は他の植物や動物、微生物といろいろな関係を持ちながら、同じ場所に生きています。その関係は、お互いに助け合ったり、競い合ったり、片方だけが利益を得たり、片方だけが害を被ったり、中立だったりと、これらの関係の総称を「共生」と呼びます。