森の中の不思議な巡りあわせ

クスノキの樹木(左)と葉(右)

クスノキの樹木(左)と葉(右)

梅雨明けが長引いている最中、昨日は嵐のようなお天気に見舞われました。はじめ、今日の森林散策カウンセリングも中止にしようかと考えていましたが、しだいに雨は止み、すっかり歩ける状態となりました。

この森を、一緒に歩く彼女は、今日で6回目の森林散策カウンセリング。いつもの時間よりだいぶ早く訪れ、その佇まいは、とても追い詰められている感じです。いったい彼女に何があったのでしょう?

 
――こんにちは。お元気でしたか?

―はい・・・、体は元気なんですけど、気分がもう最悪で・・・。

――もう最悪ですか?!

―なんか・・・、このコロナの影響で、4月から私も主人も、在宅が始まって、子どもはやっと学校に行けるようになったのですが、でも、休みの日に出かけることをなるだけ控えていて、そうなるとまた家族全員が家で過ごすことが多くなって・・・、
はじめは嬉しいし、いい面もあったのですが・・・、
それがだんだんイライラするようになっちゃって、でもそんな自分が、あー嫌だなあと思うと苦しくて・・・

と彼女は、歩き始めるとすぐに、この1か月で溜まった胸の内を吐き出しはじめたのでした。そしてあと10分でふりかえりの時間に差し掛かろうとする時、彼女は突然話を止め、静かになりました。

―あれ、なんだろう?この匂い?
ツンとした、なんかこう・・・すっきりとした、爽やかな感じの、いい匂いがしません?

――お!気づきましたね。この匂い、どこかで嗅いだことはありませんか?

―ん・・・、懐かしい感じ?あ!おばあちゃん家の匂いかな。

――おばあちゃん家の匂いとは、懐かしい感じですね。はい、この匂いは、カンフルという成分、樟脳の香りなんですよ。

―あー!? 樟脳なんですね。

――目の前に立っているクスノキの葉っぱから匂いがして来て、葉っぱをちぎるとツンとした香りがするんです。

―え?でも今、葉っぱをちぎってないですよ?

と、私は地面へ視線を落としてみました。すると

―あっ、たくさんの葉っぱと小枝が落ちてる!ここからいい匂いがしてるんだ!
でも、どうしてこんなに葉っぱが落ちてるんだろう?

――クスノキは強風のとき、大きな枝が折れたり、自分自身を支える幹が折れたり、あるいは倒れたりしないように、わざと葉っぱや小さい枝をたくさん落として、風からの当りを少なくしているんですよ。

―すごい!自分が最悪のパターンになる前に、自分で自分の体を守っているんだ!

――はい、まさにクスノキの生きる戦略ですね。

―そうか・・・・・・・・・

と言って、彼女はしみじみ思い巡らしているようでした。そして

―こんなにもストレスを溜めてちゃいけないですね。自分のためにも、家族のためにも。
私のストレスを小出しにして・・・。今の新しい生活に合わせて工夫していかなきゃ!!!

と、彼女はまるで自分自身に言い聞かせているように話してくれました。
 
今年は、これまでに経験したことのない出来事が毎月のように起こっています。それもいつ終息するかも分からない不安がつきまとっています。しかしその中で、新しい日常生活に自分自身を変えていくことは、これから生きていく上での、私たちの戦略なのかもしれませんね。彼女も自分のストレス対処法に、しっかり気づきました。

それにしても、森の中では不思議な出会いがいつも巡ります。彼女は長い時間、周囲に目もくれず話し続けていました。けれども森の中の「ツンとした香り」が、彼女にクスノキの存在を知らせ、地面に落ちている小枝を紹介しました。それはまた、彼女との森林散策カウンセリングの前日に、嵐のような天候だったから起きた樹木の戦略で、もし晴れていたら?あるいは雨が降り続いていたら?などと想像すると、今日はどうなっていたのでしょうね。このような不思議な巡りあわせが、次回の森林散策カウセリングでも出会えますように♪

 

~森のメモ~

クスノキ:クスノキ科クスノキ属
Cinnamomum camphora
高木。関東~九州の暖温な地域の山地に自生しますが、公園やお寺、神社、街路樹にも植えられ、普段から目にする機会が多いです。昔は樹皮から樟脳を抽出し、防虫剤として利用していました。葉をちぎるとツンとした爽快な香りがします。イライラしている時こそ、嗅いでみてください!