ひんやりとした森の中

夏の森:炎天下は暑いですが、森の中は案外と涼しいものです。

 

毎日本当に暑い日が続きますね。今年は涼を求めて気軽に遠出できる機会が限られています。けれど、案外身近な森にも小さな避暑地はあるものかもしれません。

彼女は、今日で2回目の森林散策カウンセリング。在宅勤務が増えるにつれて、外出する機会は減ってしまったようです。この森歩きは、彼女の日常生活にどんな変化をもたらすのでしょう?

―毎日暑くて、仕事も家で、スーパーに行く以外は、出かけることが減っちゃって・・・。

――そうなんですね。

―満員電車に乗るストレスがなくなったのはいいんですけど、通勤って、案外運動になってたんだって思うし、家の中でずっと過ごしていると、何とも言えないモヤモヤした気持ちになってくるんです・・・。

と、彼女は今の生活について話し始めました。しばらくそのような言葉が続く中、私たちは林冠の閉鎖する(注)森の中へと歩いてきました。すると、

―なんか!? ひやっとしません?

と彼女は自分の話を止めて、言いました。

―さっきまでと違って、ちょっと空気が冷たくなった感じがするような・・・。

――おーーー!このちょっとしたひんやり感に気づいたんですね。

―はい、清涼感があります。

――実はこれ、ここにいる樹木達が水蒸気を出しているからなんですよ。

―え?水蒸気ですか?

――はい。樹木や植物の根っこから吸収された水が、葉っぱから蒸発していく作業が行われているんです。この生理作用を蒸散と言って、樹木や植物自体の温度が高くなるのを防いで、生活していくための適度な温度を保つために行っているんです。暑い日に、森の中が涼しく感じるのは、このような樹木や植物たちの蒸散によって、水分と一緒に熱も奪われるからなんです。

―なるほど。野外にいる樹木は、ちゃんと熱中症対策を行っているんですね(笑)。

――はい、その通りですね!

―遠くに行かないと涼しい場所がないと思ってましたが、案外と近くにもあるものなんですね。ここだったら、ウォーキングがてら来やすいし、換気もいいし、距離も保てるし、3密になりにくそうですね。友だちと会って、話しもできそう。ちょっと嬉しくなってきました!

と言って、彼女はすっかり明るい表情になりました。

森の涼感に気づいたことで、樹木や植物が生活していく上で自分達の体を守る蒸散作用を知ることができました。それによって、彼女は身近な場所に小さな避暑地を見つけ、今の社会状況の中でも安心して人と過ごせる場所を発見し、より自分自身の日常生活を改善しようとするヒントを見出しました。

毎日の生活のなかで、適度な運動や気の置ける友達とのおしゃべり、自宅ではない場所での息抜きは、大したことないようで、実はバランスよく生活していく上で欠かせないことなのですね。彼女がこれから過ごしていく新しい生活の中で、彼女との森歩きもどのように進んでいくのでしょうね。

~森のメモ~

林冠の閉鎖:
直射日光が当たる背の高い樹木の枝葉部分を林冠と言います。何本もの樹木の枝葉部分が茂り、地上から林冠を見上げた時、空が見えない状態を林冠の閉鎖と言います。