森のひっそりとした目映さ(まばゆさ)

今まで安心して過ごしていた状態が、突然180度変化すると、誰だって不安になり戸惑うものです。でも、その変化した状態も、自然のなりゆきの姿なのです。だったら、これまでとは別の方向に視線を向けてみれば、また新たな発見があり、気持ちは和らいでいくものではないでしょうか。

3月から一緒に森を歩き始めた彼女は、今日で3回目の森林散策カウンセリング。開葉までの2か月間、森の中は明るく、遠くを見ながら歩くこともできていた彼女。その安心から、色々と話してくれていたけれども、本当に言いたいことがなかなか言えないままでもいた様子。そんな彼女に、春の展葉とともに様変わりした森は、どのような働きをもたらしてくれたのでしょう。

 

―わー!すごい。葉っぱがあちこちから出てる!

――ほんとですね。今まで葉っぱがなかったですものね。


―実は、一年のうちで新緑の季節が一番好きなんです。


――緑いっぱいの森が好きなんですねぇ。


―でも・・・、なんか違う。先月と同じ森を歩いているんだけど・・・、

好きなはずの、新緑の森なんだけど・・・・・・なんか怖い感じがする・・・。

――怖い?どんなところが怖いのでしょうね?


―ぞわーっと、色んなところから葉っぱが出てきていて、

森がわさわさしているような。なんかこう生命力に溢れてるっていうか、
自然の強さに怖くなるっていうか、
圧倒されて、自分が負けちゃいそうな感じがする・・・。

 

「なるほど・・・」と、思わず心の中でうなずきます。
樹木の葉っぱが出てきたことで、樹冠が閉じられ、陽射しは林床まで届きにくくなりました。そのため森の中は薄暗く、すんなり奥まで見えなくなったのです。先月までの森と比べると、すぐそこに何が在るのか分からない不安や、まるで緑の壁に囲まれたような閉塞感を抱いたのかもしれません。

そこに、やさしい風が、森の中を駆け巡ります。
私は立ち止まり、ゆらめく葉っぱの方へと見上げてみました。
彼女も釣られて立ち止まり、私が見上げてる方へと頭を上げていきました。

 

―風が吹いて、木がゆらゆらしてる。それにつれられ、葉っぱも揺り動いてる。
なんか「久しぶり!元気だった?」って、葉っぱ同士が挨拶しているみたい!

――ほんとですね!声を掛け合ってるように見ますね!


―気持ちがいいな~


――さわやかな気持ちになりますね!

―こういう景色を見ると、やっぱり新緑の季節っていいなあって思う。
さっき見た同じ森なのに・・・今見てる森とも違って見えて、不思議だなあ。
この前まで、なんにもなかった木の枝に・・・、
暖かくなったら、葉っぱが出て、
風が吹いたら、その流れに乗って揺られていく・・・。
無理に抵抗しないで、素直に従う、そんな自然の姿っていいなあ。
私も、・・・・・・・・シンプルに、こういう自然のように生きていきたいなあ。

 

と、彼女は見上げたまま、つぶやくように話してくれました。

なるほど!ちゃんと聞いたよぉ!「シンプルに、自然のように生きていきたいなあ」って!それがずーっと言いたかったんだ!と、私は心の中でつぶやきます。

先月まで安心して過ごせていた森に、シンプルに、樹木の開葉があっただけなのに。私たちの視界は遮ぎられ、先が見えない不安に駆られました。でも、ちょこっと空の方に目を移しただけで、揺らめく葉っぱは爽やかな気持ちを私たちに運んでくれました。そこであなたは、自分のなりたい姿、「シンプルで、自然のように生きていく」ことを見つけましたね。その姿には「怖い」と言った、自然の生きる力強さも含んでいるのですよね。
これからが楽しみですね。

彼女は、様変わりした5月の森に戸惑い、恐怖を抱きました。その気持ちを抱えながらも彼女は、新たな方向へと飛ばされた、森林散策カウンセラーのボールをすんなりキャッチし、自身の心へと向き合いに行ったのです。
無理に抵抗しないで素直に自然に従う森の姿は、今の私たちの生活にも必要なことなのかもしれません。

~森のメモ~

展開:植物の葉が開き、広がることを言います。
展葉:植物の葉が開いてくることを言います。