森からの話さないアプローチ

しとしと降る雨の天気でも、森林散策カウンセリングは、森の中へ出かけていきます。
晴れた冬の日の森とは違って、雨の冬の日の森は薄暗く、木々の合い間から、どんよりした空が見える程度に明るさを感じます。ところが、晴れた日とは違って、森の中を歩くと、にぎやかな音と、さまざまな香り、そしてキラキラした粒に出会います。

彼女との森林散策カウンセリングは、今日で8回目。彼女にとって、月一回、いつもの森へ出かけることは、すっかり生活の一部になっており、慌ただしく過ごす日常で唯一、自分の心の内を打ち明ける場所になっているようでした。

今日も、森に一歩踏み始めると同時に、

-この一か月は、本当に忙しく・・・・

と、堰を切ったように彼女の口から言葉があふれ出します。
森の中を歩いている彼女は、傘を差しながら、濡れた林床(注1) に顔を向けたまま、歩いていきます。そして、肩に力が入ったその姿勢からは、彼女の息苦しさも感じます。
そこで、

――あれ?何かいろんな音が聞こえませんか?

と声かけしてみます。
彼女は差していた傘を横にどけ、耳を澄ませ、森の中を少しずつ見上げ始めました。

-ん?・・・雨の音?・・・なんだろう? いろんな所から聞こえるかも。

――確かに。雨の雫が、枝だったり、落ち葉だったり、水たまりに、あたっている音が聞こえますね。

-そうそう、雨粒の音だ!

と、彼女は、森の中へ意識を向け始めました。

-あれ?あそこの細い枝に、等間隔に、まあるく、キラキラしてるものが見える!

――あ、あの枝ですね!枝の芽に、雨粒がついて丸く見えるんですね。芽が膨らんできているから、水滴もその分、つきやすくなったんですね。

-着々と、春が近づいてきているんですね。なんか、かわいい~。

と、すっかり自然を楽しみながら森の中を歩き、一時間が終了しました。
すると、

-話すことだけがカウンセリングではないんだなあ、と思いました。ずっと仕事に縛られてる自分から、完全に離れられ、今日は仕事を忘れることができました。こういう時間も大事なんだなあと思いました。

彼女の言葉が、ぐぐっと私の心に刺さります。
毎日がいっぱい、いっぱいで、余裕のない彼女を、優しく、自然にリフレッシュさせてくれる森と、そのことに気づいた彼女に、ウルっと涙が出そうになりました。

いっけん雨だと、森へ行こうという気持ちになりません。しかし雨の日は、雨の音、草の匂い、キラキラした雫、生き生きとした葉っぱ、ツヤツヤした土など、晴れた日とは異なる森の楽しみを与えてくれるのです。これらの楽しみを、彼女たちの状況に応じて、どのようにカウンセリングプロセスの中で活用していくかが森林散策カウンセリングの技法です。彼女の言葉通り、話すだけがカウンセリングではありません。森は、話すきっかけにもなるし、話さないきっかけにもなるのです。

 

~森のメモ~

林床
森林の中の地表面のことを言います。森林散策カウンセリング中では、クライエントとカウンセラーが歩いている場所の地面のことです。