森の中のざわざわ会議

アカマツ<em>(注)</em>

アカマツ(注)

ざわざわ会議の様子

ざわざわ会議の様子

森の中を歩くことに慣れ、そろそろ森林散策カウンセリングから卒業する日が近づいて来ているんですね、と感じる瞬間があります。

彼女とは、森林散策カウンセリングを始め、もうじき1年になろうとしています。森は、色鮮やかな様子から、幹(みき)と枝がはっきり見える、落ち着いた色合いに、様変わりしています。

今日の彼女は、静かに、一歩一歩、森の中を見回しながら歩いています。ゆっくりした間隔で、パリッ、パリッ、カシャッ、カシャッと、落ち葉を踏み鳴らす音が、心地よく鳴り響きます。しばらく一緒に歩いていると、ゴオーッという音とともに木枯らしが吹き渡りました。はたと、彼女は立ち止まり、ゆっくりと木々を見上げ始めます。

-ざわざわしてる。

――ん?ざわざわしてる?

-ほら、見て!あそこにある木々が、めちゃめちゃざわざわしているように見える!

――あ、あそこのアカマツたちが!みんな、大きく揺れてますね。

-なんだか・・・会議中のスーツを着たおじさん達が、難しい話なんかを、ああだこうだと、激しく言い合ってるみたいで、怖い。

ん!一瞬、心がざわざわしてるのかと思って、ハラハラしたけど、アカマツがざわざわしてるって!と心の中でつぶやき始めます。

「会議中でざわざわしてる」とは、なんて面白い表現なんだ!さらにアカマツをおじさんに見立て、そのおじさんが「スーツを着てる」という発想力。確かに、カラマツの葉が落ちて、アカマツの幹とダークブラウンの統一感が出てるし、地味な背広を着ているおじさんに見えちゃうし!これまた木々が激しく動いている様子が会議の論争中なんだもの!!

と、心の中のつぶやきが、激しく私を揺さぶり始めます。

-でも、じーっと見ていたら、会議で激しく言い合ってるんじゃなくて、「今日の昼、何食べる?」「軽く蕎麦?」「いや、定食屋はどう」なんて、相談しているようにも見えてきて、不思議にかわいいなあ、なんて・・・・・・(笑)。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
同じものでも、見方を変えるだけで、自分の気持ちまで違っちゃうんだなあって。これって、いろんなことがあった時に、気持ちが楽になれるかも・・・・・・。

うゎうゎっうわーっ。会議からランチの相談へ!!そこから、自分の捉え方次第で、気持ちが楽になるという気づきが!私の心は震えています。

 

およそ一年前の彼女の言葉を懐かしく思い出します。

森を歩き始めた頃も、今日のように葉っぱのない樹木が並んでいました。その様子を彼女が、「樹木が枯れて、何もないし、つまらない」と表現したことを覚えています。その時と比べて、なんと彼女の想像力と表現力が豊かになったことでしょう!今日、ここで得た彼女の気づきは、これから彼女の大きな力になっていくことと推測します。

そろそろ、彼女がこの森林散策カウンセリングから卒業する日が近づいてきているんだなあと感じます。嬉しいなあ。

 

冬の森に、突然木枯らしが吹いたから、彼女の想像力と表現力が豊かになり、気づきが得られたわけではありません。毎月1回、彼女が森を歩き、その都度、自然から何かしらを感じ取り、嬉しさ、悲しさ、怖さ、苦しさ、怒りなどの感情とともに、彼女の中で積み重なり、少しずつ彼女の感性が培われてきた結果なのだと考えます。森とともに育まれるこれらのプロセスは、森林散策カウンセリングならではのファクターなのだと思います。

~森のメモ~

アカマツ マツ科マツ属
Pinus densiflora

常緑針葉樹。高木。北海道南部~九州の温帯に自生または野生化し、山地~沿海の乾いた場所や尾根、やせ地、岩場などに生えています。葉は針状が2本ずつ束になり、樹皮は赤みを帯びています。ちなみに「赤松」という和名は、「赤みを帯びた樹皮」が由来です。アカマツ林はマツタケが出ることで有名ですが、それには森の維持管理が必要です。とはいえ、「マツタケがでるかも?」と想像するだけで、わくわくしてきますね!