森の中から茶釜?!

秋のはじまりから紅葉へ アベマキの様子

秋のはじまりから紅葉へ アベマキの様子

横たわり(イメージ)

横たわり(イメージ)

毎月1回の森林散策カウンセリングでは、森の中を歩くだけではなく、ほんの少し「寝転びの時間」も設けています。

彼女と毎月1回の森林散策カウンセリングを始めて6回目。春の芽吹きからスタートし、新緑~暑夏が過ぎ、秋の気配を感じる季節となりました。爽やかな風が吹き、暑くもなく、寒くもない穏やかな陽射しの中、30分かけて大きなアベマキ 1)立木 2) へたどり着きました。

―― では、今日も、ここで10分間、横たわりましょうか。

― はい。

―― 10分したら、声かけますね。

彼女はカウンセラーが指定した場所にシートを敷き、横たわりました。
カウンセラーも彼女の傍らにシートを敷きました。
沈黙のまま、樹冠 3) を見上げていると、気持ちのいい風が吹き、と同時に木々の枝が揺れ、軽やかな葉の擦れ合う音が聞こえてきました。

―― そろそろ時間ですので、起きましょうか?

カウンセラーの言葉で、彼女はゆっくりと起き上がりました。
そして、驚きと嬉しさが混じり合う表情で、

― 分かりました!

と、突然これまで聞いたことのない大きな声で彼女が言いました!
「ど、どうした?何かが起こった?」と、心の中でざわめき始めていると、

― あの時…、あの先生が言っていたことが…、今、寝ていたら分かったんです!
以前、お茶を習っていて、先生が茶釜の沸騰した音を松の葉擦れの音に例えて教えてくれたんです。その音は、風が吹いて、松の葉が「シュシュッ」と葉が擦れ合う音で、それが聞こえたら沸騰した合図なのよ、って。あの時はどんな音なのか全然分からなかったけど、いま!風が吹いて、この葉っばが揺れたら、ほんとに「シュシュッ」と鳴ったのが聞こえたんです!

と、興奮しながら彼女が話してくれました。

― でも、10年前はお茶を習うほど自分に余裕があったんだなーって、今、思いました。その時に比べると、今の自分って、どうしちゃったんだろう・・・。

とぽつり。
カウンセラーの心がウキウキし始め、こうつぶやきます。
とうとう、この森林を自分のものにしましたね、と。
アベマキの葉擦れから、まさか茶釜の湯音を思い出すとは!
つづけて、自分自身のふりかえりまで彼女が始めるとは!あっぱれです!

半年かけて、森林を歩いてきた甲斐が、彼女にはありました。
多くの人と、毎月1回、彼女と同じ森林を歩いていますが、どの場所で、どの季節で、どのタイミングで、人々の気づきが起きるのかは、人それぞれで、その都度、感慨深いなあと感じてしまいます。まさに、これが森林散策カウンセリングならではのプロセスだなあ…と。

さあ、次のステップに向かって、来月も一緒に歩きましょうね。
 

~森のメモ~
アベマキのどんぐり

アベマキのどんぐり

1)アベマキ ブナ科コナラ属
学名:Quercus Variabilis

別名はコルククヌギ。落葉高木。主に中部地方~九州の暖温帯に自生。山形、長野、関東にも分布。葉身長(葉の長さ)は12~22㎝。葉はクヌギに似て細長いですが、より幅広く丸みの強い葉が多いです。どんぐりだけではクヌギとほとんど見分けがつきません。

2)立木
「リュウボク」と言います。字の通り、地面から立っている樹木のことです。

3)樹冠
「じゅかん」と言い、樹木の上部の枝や葉の部分のことです。同じ言い方で「樹幹」という言葉もあり、こちらは樹木の幹の部分をいいます。